無音を表す「シーン…」は手塚治虫が生み出した? マンガ界の「大発明」を振り返る
顔に縦線、怒りマーク……マンガ独特の「漫符」とは
●ヤバイときには「顔に縦線」
誰が始めたのかはわかりませんが、登場人物の顔に縦線を描いて、マイナスな心理状態を表現するテクニックも画期的な発明です。困ったり焦ったり怖かったりなど、とにかく「ヤバイ」ときには「顔に縦線」。さくらももこ先生の『ちびまる子ちゃん』でよく使われていたのが、印象的ですよね。
お母さんに怒られたとき、いたずらがバレそうでドキドキしているとき、友達のギャグが笑えなかったとき……あらゆる「ヤバイ」場面でまるちゃんの顔には縦線が描かれます。大なり小なり「なにかヤバイ状況なんだな」ということが、一瞬で見てとれる「顔に縦線」はマンガ界の共通言語です。
「顔に縦線」のように、誰もがその意図がわかる表現は、「漫符」と呼ばれます。「漫符」の呼称は『サルでも描けるまんが教室』(相原コージ・竹熊健太郎 共著)で初めて登場し、「感情や感覚を視覚化した、まんがならではの符号(記号)のこと」と説明されています。
音楽の共通言語が「音符」なら、マンガの共通言語は「漫符」というわけです。読者は、キャラの顔に十字型(Y字型の場合も)の曲線が描かれていれば「怒っているな」とわかり、頬に斜め線が数本描かれていたら「照れてるんだな」と思えるなど、日本のマンガには欠かせないテクニックです。多彩な「漫符」は、誰が始めたものかはわかりませんが、思うに日本マンガ黎明期の漫画家たちがさまざまに工夫をこらして生み出したのでしょう。そして、漫画家の共有財産として、世界に誇る日本のマンガを造り上げてきたのです。
●単行本の背表紙に一枚絵が
作品自体の表現ではありませんが、鳥山明先生の大ヒット作『ドラゴンボール』の単行本背表紙にも大発明がありました。全42巻をそろえて並べると、背表紙の絵がつながって一枚絵が完成する……という仕掛けがあったのです。
巻物のような長い絵として現れたのは、7つのドラゴンボールを持った神龍を、悟空や亀仙人、ピッコロ、ベジータなどの人気キャラが追いかけている様子。完成した絵を眺めるのも楽しいのですが、当時、発売ごとに買い足していたファンにとっては、次はどんな背表紙なのかと待ち焦がれる、わくわくイベントともなっていました。
この仕掛けを発明したのは、「週刊少年ジャンプ」で伝説の編集者と呼ばれた鳥嶋和彦さんです。鳥嶋さんによると、アイデアのもとは子どもの頃に集めていたキャラメルのおまけなんだとか。そのおまけは集めて絵を完成させるものだったそうで、「ならばマンガの背表紙も一枚絵にしてしまえば売り上げが伸ばせるんじゃないか」と考えたのだそうです。
一枚絵が完成するとなれば、1巻も抜かさずに買いたくなるだろうからと。さすがは伝説の編集者、売り上げを伸ばしつつファンを喜ばせるという、WIN-WINの作戦を立てたのです。
しかもこのアイデアは、忙しい漫画家にとってもありがたいものでした。一度完成絵を渡しておけば、単行本のたびに背表紙を書く必要がないのですから。
背表紙が一枚絵になる手法は他にも『こちら葛飾区亀有公園前派出所』(41巻~46巻に相当)や、『ジョジョの奇妙な冒険』黄金の風編(49巻~63巻に相当)で行われ、それぞれファンを楽しませてくれました。最近は電子版の普及で背表紙の遊びはなかなか難しい時代かもしれませんが、コレクター心をくすぐるこんなアイデアには、ぜひともまた出会いたいものです。
(古屋啓子)

