手塚プロ初アニメ『ふしぎなメルモ』 幼少期は「変身ステキ」だったが見返すと伝わる「性と命」の大切さ
昭和の子供たちを夢中にさせたTVアニメ『ふしぎのメルモ』は、〈性と命の尊厳〉を教える異色の作品でした。最終回は愛に満ちた感動のエンディングでしたが、では原作の終わりはどうだったのでしょうか?
アニメ版は紙芝居風の性教育の解説が入るアレンジも

1971年から翌72年までTBS系列で放送された、手塚治虫先生原作のTVアニメ『ふしぎなメルモ』(全26話)は、手塚プロダクションが制作した最初のテレビアニメシリーズであり、子供たちの変身願望を大いにくすぐった、記憶に深く残る作品です。
主人公のメルモちゃんは交通事故でお母さんを亡くし、小学3年生ながら、幼い弟を育てなければならなくなりました。そんなメルモちゃんを助けてくれたのが、天国のお母さんが届けてくれた青色と赤色の「ミラクル・キャンディー」です。
青を食べれば10歳成長し、赤を食べれば10歳若返る不思議なキャンディーの力を借りて、メルモちゃんはさまざまなピンチを乗り越えます。時には妙齢の魅力的な女性になり、時には受精卵にまでさかのぼり、さらには赤と青の合わせ技で動物にも姿を変えるのです。TVの前の子供たちには不思議で楽しい変身ファンタジーでしたが、実はこのアニメには「性と命」という大テーマがあり、アニメを通じた性教育の意図がありました。
アニメの最終回は15年後の世界。結婚したメルモちゃんが、病院の分娩室で陣痛に耐える場面が時間をかけて描かれ、ついに女の子を出産します。恩人であるワレガラス医師の「人間の、いや生きものの幸せとは、永遠の繰り返しの中にある命の営みそのものを言うのではないだろうか」という言葉は、子供たちには難しかったかもしれませんが、きっと手塚先生がぜひとも伝えたかった言葉なのでしょう。
これほどのメッセージ性を持ったアニメですから、さぞかし原作の最終回も……と思って調べると、なんと原作マンガにはそんな場面はひとコマもありません。
実は『ふしぎなメルモ』はもともとTVアニメ用に企画された作品で、マンガは番組に先行して雑誌「小学1年生」(小学館)に連載されたものなのです(当初のタイトルは『ママァちゃん』)。さすがに低学年児童向けということで、性教育の要素はぼかされたのでしょう。
基本的に1話完結の原作マンガは、メルモちゃんがミラクル・キャンディーを食べて、看護師や学校の先生、婦警さんなどに変身しながらピンチを乗り切る、茶目っ気たっぷりのドタバタコメディで、第19話で唐突に終わっています。
その内容も、元気のないゾウの「ぶら子さん」を、ミラクル・キャンディーで客室乗務員に変身して故郷に連れて行くというもの(アニメの第2話にあたる)で、どのような事情で連載終了となったのかは分かりませんが、これは事実上、原作には最終回はないと言えるのではないでしょうか?
ちなみにアニメ『ふしぎなメルモ』の裏番組は、今も続く『サザエさん』だったそうで、手塚先生自身も「評判のよいわりにはかんばしくない視聴率で終わりました」と、無念さにじむコメントを残されています。
(古屋啓子)