なぜ「ジオン」の独裁者は同じ宇宙移民のコロニーを「落とせた」のか?
初めてリアルに戦争を描いた名作ロボットアニメ『機動戦士ガンダム』で、ジオン公国は開戦初頭に、宇宙で人が生活するために作られた、全長6kmの円筒構造物「スペースコロニー」を地球に落下させます。ジオンは宇宙に住むスペースノイドの独立のために開戦したのに、なぜ同じスペースノイドを犠牲にしてコロニーを落とせたのか、考察します。

『機動戦士ガンダム』は、ロボットアニメを初めて本格的なSFとして、かつリアルな戦争として描いたことで、放映開始から43年を経た現在でも語り継がれる名作となりました。
物語の冒頭で、宇宙で人工的に作られた居住地「スペースコロニー」群のひとつである「サイド3」が「ジオン公国」を名乗り、地球連邦に対して独立戦争を挑みます。ジオンの国力は、連邦の30分の1以下であり、真正面から戦いを挑んでは勝ち目がありません。
ジオンがこの不利を覆すために取った手段は、恐るべきものでした。厚い岩盤に守られた、地球連邦軍総本部ジャブローを破壊するために、全長6キロ(諸説あります)のスペースコロニーに核パルスエンジンを装備して移動させ、質量爆弾として地球に落下させたのです。
落下したコロニーは南米のジャブローを直撃せず、オーストラリアを直撃。オーストラリア大陸の16%を消滅させ、連動して大津波と気象変動などの天変地異を引き起こします。
この「ブリティッシュ作戦」を成功させるために、ジオンは7つある宇宙都市群「サイド」のうち、サイド1、2、4の住人を全滅させ、直後にルウム戦役に巻き込む形で、サイド5をも壊滅させています。コロニー落としと各サイドへの攻撃により、人類は「総人口の半数」が命を落とす壊滅的被害を出します。
なお、ジオンの戦争目的は「宇宙に住む民・スペースノイドを長年、差別して虐げてきた地球連邦政府の支配に鉄槌を下し、スペースノイドの独立を勝ち取る」というものです。そのジオンが、同じスペースノイドの大半を全滅させたことになります。
なぜ、ジオンは同じスペースノイドまでも手にかけたのでしょうか。また、何十億人が犠牲になっても構わないという、強烈な敵意はどうして生まれたのでしょうか。
ジオンの独裁者であるギレン・ザビは「連邦が長年、自由を求める我々を踏みにじった」ことを、開戦の理由にしています。しかし『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』を見ても「連邦の過酷な支配」はあまり描かれていません。
主人公キャスバル(シャア)が、ジオン士官学校生を煽動して「暁の蜂起」を引き起こし、サイド3に駐留する連邦軍に損害を与えても、亡命を望むミノフスキー博士を保護しようとした連邦軍部隊が、ジオンのモビルスーツ部隊により壊滅しても、連邦は「サイド3を制圧してジオンを軍事的に壊滅させる」とか「指導者のザビ家を暗殺して、親連邦政権を樹立する」などの報復・弾圧は行っていません。
また『THE ORIGIN』では、サイド3への移住希望者が多数いることも描かれていますが、連邦側は自身を敵と見なすサイド3への移住を禁じたりもしていません。事実として、ジオン側から開戦するまで、かなり融和的なのです。