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【追悼】アニメ作品にも影響与えた大林宣彦監督、「映像化困難」なマンガへの挑戦も

楳図かずおワールドも大胆に脚色

楳図かずお氏の代表作を映画化した『漂流教室』
楳図かずお氏の代表作を映画化した『漂流教室』

 もう1本、大林監督が人気マンガの映画化に実験精神を持って挑んだ、1987年公開の劇場映画を紹介したいと思います。恐怖マンガの巨匠・楳図かずお氏の代表作『漂流教室』を、大林監督は初めて実写化しています。小学校が丸ごと異次元世界へとトリップしてしまうというスケールの大きさから、映像化は難しいと思われていた『漂流教室』に、大林監督は独特な脚色を加えています。

 原作では主人公となる少年・高松翔(林泰文)が通う小学校を、映画では神戸にあるインターナショナルスクールという設定に変えています。肌の色が異なる子どもたちは学校ごと異空間へと迷い込み、校内でサバイバル生活を送ることになります。子どもたちが慕う若い女性教師・みどり先生(南果歩)も一緒です。みどり先生が弾く、ピアノ演奏の優しいメロディによって、学校を襲うモンスターたちが退散するなど、原作にはないオリジナルエピソードが満載でした。

 手塚治虫氏は『瞳の中の訪問者』を観て激怒したことが知られていますが、実写版『漂流教室』も、楳図かずお氏からは残念ながら評価されなかったようです。ビデオ化はされたものの、現在もDVD化はされていません。

 しかし、『漂流教室』の原作を全巻読まれた方ならご存知だと思いますが、翔たちは人類滅亡後の未来世界に撒かれた希望の種であり、新しい人類のアダムとイブになる存在です。さまざまな人種が混じったインターナショナルスクールの少年少女たちが未来世界を生きるという設定は、原作のテーマ性を汲んだものであり、実写作品として決して悪くないアレンジだったと思います。問題は大林監督がリアルな暴力描写を好まなかった点にあったのではないでしょうか。

大林監督が遺した『海辺の映画館 キネマの玉手箱』

映画『海辺の映画館  キネマの玉手箱』より
映画『海辺の映画館 キネマの玉手箱』より

 大林監督の映画には、サーカスのテントで奇術師のマジックショーを楽しむような面白さがありました。日常生活とは切り離された、ちょっとヘンテコな世界です。リアルさが求められがちな実写映画のなかで、大林監督はフィクション度の高い作品をつくり続けました。フィクション度の高い大林ワールドだからこそ、逆に浮かび上がって見えてくる真実もあるのです。

 当初は2020年4月10日に公開が予定されていたものの、新型コロナウイルスの影響で延期となった大林監督の最後の作品『海辺の映画館 キネマの玉手箱』は、こんな物語です。街に残る最後の映画館で閉館記念に戦争映画のオールナイト特集上映が行われます。現実世界を生きる若者たちは最初は観客だったものの、途中から現実と虚構との壁を通り抜けて、上映中の映画の世界へと迷い込んでしまいます。やがて若者たちは、本や映像でしか知らなかった戦争を実体験することになります。

 フィクションの世界で真実に触れるという、大林監督ならではの作品です。戦争という圧倒的な暴力に向き合っています。

 原田知世さんが15歳の時に主演した『時をかける少女』をはじめ、大林作品の女優たちはいつまでも映像の世界のなかで、色褪せることのない輝きを放っています。同じことが、大林監督自身にも言えます。私たちが大林作品を繰り返し観ることで、大林監督も作品とともに永遠に生き続けるのではないでしょうか。

(長野辰次)

●映画『海辺の映画館 キネマの玉手箱』 ※近日公開
監督/大林宣彦 脚本/内藤忠司、小中和哉
出演/厚木拓郎、細山田隆人、細田善彦、吉田玲、成海璃子、山崎紘菜、常盤貴子
配給/アスミック・エース PG12

(C)2020「海辺の映画館-キネマの玉手箱」製作委員会/PSC

【画像】大林宣彦監督が遺した最終作は、「映画館」が舞台?(8枚)

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