スーファミ後期に出回った、謎の「白カセット」 知らない人もいるが、今の「当たり前」が詰まってた?
任天堂も含めた各社の次世代ハードがしのぎを削った90年代後半、任天堂による「白色」のスーパーファミコン用カセットが出回りました。その正体とは……?
コンビニで安価にソフトを「入手」できた

1990年に発売された任天堂「スーパーファミコン」(スーファミ)のカセットは、ラベル部分はソフトごとにタイトルやイラストなどが異なるものの、カセット本体部分はグレー色でデザインが統一されていました。スーパーファミコンといえば、このグレー色のカセットを思い起こす人は多いでしょう。
ところが、スーファミの発売からかなり年数がたった1990年代の終わりから2000年代にかけて、真っ白なボディのカセットが出回っていたのです。通常のカセットのようにラベル全面にゲームタイトルなどが描かれておらず、1から7の数字が書かれた枠が印刷されています。
当時すでに、次世代機である「NINTENDO 64」(1996年発売)や、そのライバルとなる初代PlayStation(1994年発売)、「セガサターン」(1994年発売)などがありました。スーファミからそれらのハードに移行していたプレイヤーも多く、白いスーファミカセットについては「見たことがない」という方も一定数いるでしょう。
この白カセット、実は任天堂とローソンによるゲーム販売サービス「ニンテンドウパワー」専用の「SFメモリカセット」というものです。かつての「ファミリーコンピュータ ディスクシステム」と同じように、ローソン店頭でSFメモリカセットの中身を書き換えしてもらう形で、スーファミ用ゲームが購入できるというサービスでした。
任天堂のプレスリリースによると、ニンテンドウパワーは1997年9月30日から、テストランを経て全国展開されました。ユーザーに対しては「良質で安価なソフトを提供する」、メーカーに対しては「市場での在庫リスクを持たない。中古市場問題の解決になる。パッケージ化(生産)の費用や期間がない」といったメリットを打ち出していました。実際、ソフトの価格は1000円から3000円前後と安価に設定されていました。
立ち上げ当時は『F-ZERO』『ロックマン7』『ときめきメモリアル~伝説の樹の下で~』『トルネコの大冒険 不思議のダンジョン』など、すでに発売済の人気ゲームが中心でしたが、『ファミコン探偵倶楽部PartII うしろに立つ少女』『スーパーファミコンウォーズ』など、ニンテンドウパワー専売ソフトも順次登場し、総計240本が発売され、2000年にはゲームボーイ用ソフトにも対応しました。
実際にソフトを購入する手順は、ローソン店内にあるマルチ端末「Loppi(ロッピー)」にSFメモリカセットをセットし、ソフト購入の手続きを進め、端末から出力されたレシートを持ってレジで代金を支払うと、店頭の専用機器でゲームデータを書き込んでくれる……というものでした。

スーパーファミコン末期に発売されたソフトはほとんどがニンテンドウパワー専売となりました。本記事を書くにあたって、あるユーザーに「SFメモリカセット」の現物を見せてもらいましたが、その方は『ファイアーエムブレム トラキア776』をプレイしたいからこれを買ったと話していました。
同作は、任天堂「バーチャルコンソール」では遊べたものの、現行機のNintendo Switch向けには配信されておらず、新たに手に入れるのは難しい状況です。他にも『ファミコン文庫 はじまりの森』『メタルスレイダーグローリー ディレクターズカット』など、今は入手困難になっているニンテンドウパワー専売ゲームが複数存在します。
2002年8月末、ローソン店頭での書き換えサービスが終了後も、任天堂にSFメモリカセットを送ることで書き換えてもらうことができましたが、そのサービスも2007年2月末で終了しています。上記の『トラキア776』ように、どうしても手に入れたい専売タイトルがあるなら購入の動機になりますが、過去作カセットの多くは当時から中古ショップなどで流通していたため、ニンテンドウパワーの利用は伸び悩んでいたといいます。
現在は、ゲームのダウンロード購入が定着しています。コンビニではニンテンドウパワーにかわって、ゲームなどをオンラインで購入できるプリペイドカードがズラリと並ぶようになりました。ニンテンドウパワーは、「過去作や新作を気軽にいつでも購入できる」という、現在のオンライン購入につながる「原型」を築いたサービスといえるでしょう。
(マグミクス編集部)