なぜ『君たちはどう生きるか』のタイトルが海外では大幅変更されたのか?
2025年5月2日、日本テレビの『金曜ロードショー』で宮崎駿監督の『君たちはどう生きるか』が地上波初放送されます。視聴前に同名小説との違いをおさらいしましょう。
海外ではタイトルが変更されていた

宮崎駿監督の映画『君たちはどう生きるか』は、吉野源三郎が1937年に発表した児童文学と同じタイトルですが、物語も主人公も舞台もまったくの別物です。なぜ宮崎監督は原作付き映画と誤解されそうなタイトルを付けたのでしょうか?
●小説と映画に共通点はない
小説の舞台は昭和初期。中学生の「コペル君」が叔父のノートや友人とのやり取りを通じて「人としてどう生きるか」を学びます。一方、映画の舞台は戦時下の日本です。母を亡くした少年「眞人(まひと)」がサギに導かれて異界をさまよい、少女時代の母と出会ったり、崩壊寸前の「石の世界」を継ぐか否かの決断を迫られたりします。
映画はファンタジー色が濃く、原作の名称やエピソードは一切登場しません。
●唯一の共通点はタイトル=メッセージ
まったく異なるふたつの作品を結ぶのは「社会のなかでどう決断して生きるか」という問いにあります。小説は叔父の言葉やノートで語りかけ、映画は眞人の行動と決断そのものを通じて「どう生きるのか」と問いかけています。
宮崎監督はこのメッセージをなじみのある名作児童文学のタイトルを使って、視聴者に届けたのでしょう。
●なぜ? 海外では『少年とサギ』に
本作の海外タイトルは『THE BOY AND THE HERON』(少年とサギ)でした。これまでのスタジオジブリ作品では見られない意訳です。「どう生きるのか」というメッセージ性はだいぶ薄まり、異界巡りの印象が強く感じられます。
なぜこれまでやってこなかったタイトル変更をしたのか、その理由は不明です。正式に海外展開が決まるまで海外メディアでは「How Do You Live」というオリジナルに近いタイトルで報道されていたこともあり、ますます謎は深まります。
抽象的な日本語タイトルよりもファンタジー要素をアピールするという商業上の理由でしょうか。それとも、もしかしたら「海外向け」は「君たちはどう生きるか」というメッセージが薄れてもいい、という判断かもしれません。
●宮崎監督は誰に問いかけたの?
本作は公開後、その解釈を巡って多くの議論を巻き起こしました。そのなかのひとつが「石の世界=スタジオジブリ」「世界の維持を願うインコたち=ジブリ関係者」「大伯父は宮崎駿」「血のつながった継承者である眞人は息子の宮崎吾朗監督」という読みです。
もし宮崎監督がタイトルテーマに込めた真意が「極めて近い身内への伝言」だったとすれば、国外タイトルが変わっても問題はないと言えるのではないでしょうか。
もちろんこれは「正しい答え」などではなく、ファンの邪推に過ぎないのかもしれません。映画『君たちはどう生きるか』はセリフやシンボルに複数の意味が込められており、言葉よりも関係性やイメージで伝える作品です。そのため見る人の数だけ解釈があります。
『君たちはどう生きるか』は2025年5月2日に日本テレビの『金曜ロードショー』で地上波初放送されます。
まだ見ていない人はもちろん、一度観て「よく分からなかった」と腑に落ちなかった方も、タイトルの問いを胸にもう一度視聴すれば、まったく違う物語に見えてくるかもしれません。
(レトロ@長谷部 耕平)