宮崎吾朗監督はスタジオジブリの転換点にいた…『アーヤと魔女』で注目すべき「新たな風」
2021年4月29日の公開が延期となったスタジオジブリの新作長編『アーヤと魔女』の監督は、宮崎駿の長男である宮崎吾朗氏です。本作をはじめ、『ゲド戦記』『コクリコ坂から』など宮崎吾朗監督の作品は、常にスタジオジブリの歴史上、重要な局面で作られていることをご存知でしょうか。同スタジオと吾朗監督の歩みについて解説します。
ピンチヒッターだった初監督作品『ゲド戦記』
2021年4月29日に公開予定だった宮崎吾朗監督による劇場アニメ『アーヤと魔女』は上映が延期となってしまいましたが、ファンの注目度はますます高まっています。本作は2020年12月にNHKでTV放送されていますが、海外で制作された『レッドタートル ある島の物語』を除けば、2014年の『思い出のマーニー』以来7年ぶりのスタジオジブリの新作長編、それも初のフル3DCGアニメーションということで話題となりました。
孤児院で育った少女アーヤが、魔女と大男に引き取られ、奇妙な家で暮らす姿をユーモアたっぷりに描いた本作の原作は『ハウルの動く城』の原作者ダイアナ・ウィン・ジョーンズの同名小説です。お亡くなりになる前に、以前途中まで書いて引きだしにしまっていた原稿を、ほんの少しだけ書き足した遺作にあたるものだそうです。
それを読んだ宮崎駿監督(以下、宮崎監督)が当初は自身の新作に……と企画しましたが、すでに『君たちはどう生きるか』が進行中だったため、プロデューサーの鈴木敏夫氏との相談を経て、宮崎吾朗監督(以下、吾朗監督)に任せることにしたそうです。
『アーヤと魔女』は吾朗監督の4作目の監督作品になりますが、吾朗監督が『アーヤ』以前に手掛けたふたつの長編作品『ゲド戦記』『コクリコ坂から』は、どちらも、スタジオジブリが重大な局面にあった時期の作品でした。今回は、『ゲド戦記』から『アーヤと魔女』に至るまでの吾朗監督とスタジオジブリの歩みについて考えていきたいと思います。
初監督作品『ゲド戦記』は、2005年にスタジオジブリがそれまで親会社だった徳間書店から分離独立して、鈴木敏夫プロデューサーが代表取締役に就任、新体制になった直後の作品です。新作の発表が求められるなか、当初監督を務めるはずだった人物が企画から離れてしまい、急きょオブザーバーとして参加していた吾朗氏が監督に抜擢されました。
それまでアニメーション制作の経験がなかったため、周囲から親の七光りとみなされましたが、宮崎監督は吾朗監督の起用に大反対で、制作から3年ほど口もきかない絶縁状態にあったそうです。そのため宮崎監督から助言を受けることもできず、とんちんかんな指示を出して大ベテランのスタッフに正座させられて、3時間お説教を受けたこともあったと、後に語っています。
それでも、スタッフの叱咤激励や手助けを受けながら、吾朗監督は作品を無事完成させ、2006年の邦画興行収入第1位、興収76.5億円の大ヒットとなりました。