アニメブームの影で、深刻な「人材不足」 業界改善のための文化庁事業「あにめのたね」とは?【PR】
アニメ人材育成と技術継承に必要なこと
そんな本事業に初期から参加してきたのが、Production I.Gに所属し『攻殻機動隊 S.A.C.』シリーズ(2002年)やTVアニメ 『黒子のバスケ』(2012) 、『銀河英雄伝説 Die Neue These 』(2018年)など多数の作品におけるキャラクターデザインや作画監督で知られる、トップクリエイターの後藤隆幸さんです。

あにめのたねの前身、アニメミライの時に、Production I.Gは制作事業に参加経験があります。後藤さんはその時の体験についてこう語ります。
「その時に実践したのは、以前から弊社で育成としてやってきたことをアニメミライの予算でやったということです。それまで会社のお金でやっていたものを国の予算でできたので、育成対象者も指導者もこの育成プログラムに集中できました。動画からステップアップして原画になりたい人を育成することについては役に立ったと思います」(後藤さん)

アニメーション制作の現場は慢性的に人材不足であり、「育成にまでなかなか手が回らない」といった声も聞かれます。しかし後藤さんは、アニメの技術継承はそうした状況でもずっと行われてきたと語ります。
「各制作スタジオは技術を継承するためにずっと頑張ってきました。実際に、今のアニメは昔と比べてはるかに作画クオリティは高くなっています。それは実際に技術が継承されてきたということの証明です」(後藤さん)

育成や技術の継承は、利益を今すぐ出せる事業とは異なり、早々に目に見える結果が出るものではありません。育成プログラムの終了後も、事業に参加したスタッフを各企業が継続して育ててきたと後藤さんは話します。
例えば、後藤さんが所属するProduction I.Gでは、若手時代の数年間、金銭的にバックアップする取り組みを行っているそうです。
「弊社では出来高のほか、契約金として一定の金額を支払うようにしています。2年目以降は技術に応じて出来高も上がっていくようになっています。基本的に働く時間は自由なのですが、指導する人が勤務している同じ時間にスタジオに入ってもらうために、この時間に就業した場合は時間協力金として上乗せするという工夫をし、金額を底上げするよう努力しています」(後藤さん)
本事業の成果は? 参加アニメーターを追跡調査
13年間、アニメーション人材育成事業を継続してきた文化庁ですが、これまでの成果はどのようなものなのでしょうか。
「参加した育成対象者たちがその後、業界に定着しているか、追跡調査を行っています。『定着率が低い』と言われることも多い新人アニメーターですが、この事業の育成対象者はその後の定着率が高いという数字も出ています」(文化庁)
『あにめのたね 2022 実施報告書』によると、2010年から2020年のあいだに育成対象者として参加したアニメーターは305名。そのうち、現在でも業界に在職しているのは296名。およそ97%が業界に定着しているという調査結果になっています。

また、これまで参加してきたスタジオからも事業後のアンケートでは参加に効果があったとの感想が寄せられており、「昔と違って、今は社内にスタッフが常駐している環境が減って、新人が質問できることが少なかったが、この事業では相談できる機会を多く設けられ、ワークフローを見直す契機になった」「この事業で若手がスキルアップする場を作ることができた」などの声が届いているそうです。
アニメーターの育成は「基本」が重要
制作進行をはじめとしてさまざまな職種が育成対象となる本事業ですが、アニメーションの中核を担うのがアニメーターです。
後藤さんは、アニメーターの育成は「基本」を教えることだといいます。というよりも、それしか教えられないのだ、とも。
「最近のアニメのすごいアクションの描き方を教えてほしいと言われても僕には教えられません。でも、何を描くにしても基本を知らなければいけない。派手なアクションに憧れる人が多いですが、実際の仕事では歩いたり、走ったり、物を持ったりなどの生活芝居を描く方がずっと多いはずです」(後藤さん)




基本を習得した上で、それぞれのクリエイターが努力して技術や個性を磨いてきた結果、今のアニメのクオリティがあると語ります。