『シャーマンキング』作者・武井宏之にも襲いかかる「試練」の数々 手掛けた仕事の「約半分」は世に出ていない?
『SHAMAN KING』登場25周年のロングインタビューも最終回となります。武井先生のもの作りにおける想い出話をお聞きします。順風満帆に見える先生も実は試練に直面し、多くの悔しい思いをしてきたようです……。
自分の仕事は「自分の絵」を描くこと
この2023年で誕生25周年を迎えたバトルファンタジーマンガ『SHAMAN KING(シャーマンキング)』は、最新作となる『SHAMAN KING THE SUPER STAR』が講談社「少年マガジンエッジ」で連載中です。残念ながら「マガジンエッジ」は10月発売の11月号で休刊となりましたが、その後は講談社のマンガアプリ「マガポケ」に移籍して連載が継続されること、さらに、同作に続く『SHAMAN KING』の新章『SKY』こと『SHAMAN KING YARD』が準備されていることが明らかになっています。
『SHAMAN KING』誕生25周年を記念したロングインタビュー企画の最終回となる今回は、作者・武井宏之先生『SHAMAN KING』以外への取り組みについてお聞きしていきます。
(取材・執筆:タシロハヤト/編集:マグミクス編集部)
2023年秋からTVアニメの放送が始まった『ビックリメン』で、武井先生は「キャラクター原案」を担当しています。「デザイン」ではなくて「原案」というのは、線画に起こす作業をしないということもありますが、「世界観の構築を含めて考え、提案する」という意味も込められているそうで、マンガの執筆以外にもさまざまな仕事をされています。
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――『ビックリメン』は最新に近いお仕事として、以前から結構な数の作品やイベントで、そうしたデザイン的な立場で関わっています。同作に関するものづくりで、想い出深いお話はありますか?
武井宏之(以下、武井) 進行形だけど『ビックリメン』は良かったよね。ちょうど弟が『ビックリマン』のストライク世代で、子どもの頃は一緒にシール集めに奔走したので、僕も思い入れがある方だと思うんだけど、今作は頭身が高い設定でしょ。『ビックリマン』はあの正方形のシールと二頭身のキャラ、世界観が唯一の正解だし、さらには個人的に「自作シール」界隈の作品も大好きなので、これどうなんだろうと思いつつも、自分に来た仕事だから自分の絵を描くしかない。
まーどうやっても(元祖とは)違うんだから、覚悟しちゃえば僕の特技を生かせる最高の題材だと思って引き受けました。神話ベースであることやキャラ付けや変身後のアレンジ、絵柄やネタ出し……こういう特技を評価され、指名してもらえるのは最高に嬉しいんです。
――確かに(笑)高すぎず低すぎない、ほどよい頭身や絵柄は最適だと思います!
武井 むしろこちらの提案を反映しすぎなのが心配だったけど、僕が考えるよりすごく適温でやってくれてる。もーちょい絵は普通なのが良いのでは……とか思うけど、意地で寄せてくれてるのもありがたいことだし、それでもなお楽しくて明るい作品にしてくれてるのは月見里監督はじめ、製作陣の技量のおかげですね。
アニメは尺の割に情報が多いから、本来あるべき段取りが省かれてるのはもったいないんだけど「本当に大切な部分」は丁寧に描いてくれてる。数字とか理屈とか世間体とか気にする人も「気付き」で優しい気持ちになれる。賢い人ほど癒しになるんじゃないかな? だから『ビックリマン』を知ってる人も知らない人も気軽に見て欲しいよね。このあと何が起こるかわかんないけどね(笑)
――他には、公共の媒体だと、東京都パラスポーツ応援プロジェクト「TEAM BEYOND」のパネル展や、JR東日本の新幹線車内サービス誌「トランヴェール」などがありました。
武井 『ビックリメン』もそうだったけど、ほとんどの場合は当時『シャーマンキング』を好きだった子が大人になり、声をかけてくれるんです。そういうの嬉しいですよね。みんなそれぞれの道に進んで結構それなりの立場になっているケースが意外と多い。自分はこれでも数年に1回ぐらいは軽く落ち込んだりするんだけど、「ああ、間違ったこと描いてなかったんだ」とか思える。
「トランヴェール」も楽しい思い出です。取材で恐山までチームと同行してね。ライターの子が「僕の初恋はアンナさんです!」とアピールしてくる。で、「いや、やっぱり違ってたかも」と(笑)。
――ひどい(笑)でもそういう時代の経過というのはわかります。自分もこの20年の間に『君が望む永遠』や『マブラヴ』シリーズというゲームを世に送り出して、一部の人には絶大な支持をいただきました。当時学生なんかだったユーザーさんも今ではさまざまなところで責任のある立場になって、そのおかげで仕事のご縁がつながることが結構あるんです。
武井 ほんとそう。そういうのはありがたい。そうだパラリンピックと言えば……実はオリンピック関連で結構大がかりな仕事したのに……っていうのもありました。アメリカの某大手企業がアニメCMやるってんで、張り切ってキャラを大量に描き起こしたのね。みんな実在の人物だから繊細な注文に修正重ねて。でもcovit-19イベントで吹き飛んじゃった!