アニメ『北斗の拳』シンとの決着までやたらアニオリ展開だった切実なワケ 放送40周年
アニメ版で初期からオリジナル要素が多い理由とは

TVアニメ化された『北斗の拳』が抱えた最後の問題点とは、原作マンガのストックでした。
「ジャンプ」では週刊連載で、TV放送とほぼ同じくらいのペースで進むので大丈夫ではないか、と思う人もいるかもしれません。しかし通常、30分もののTVアニメ1本で使用する原作は、週刊連載マンガで3話から5話といわれています。
『北斗の拳』は人気爆発後、すぐにTVアニメ化されました。そのため、TVアニメ化された際は連載から1年と1か月程度だったのです。アニメ放送開始時の原作は、ケンシロウが囚われの身の兄の「トキ」に会いに行くあたりでした。
人気作品のTVアニメなら1年以上の放送は間違いありません。そこでアニメスタッフは最初からアニメオリジナル(アニオリ)の展開を用意することになりました。それが最初の敵役であるシンとの戦いを膨らませることです。
原作ではわずか10話で退場したシンとの戦いを、アニメ『北斗の拳』は半年ほどかけて第22話「第一部完結 ユリア永遠に…そしてシンよ!」まで引き伸ばしました。その間を埋めるため、いくつかのアニオリ展開が用意されます。
大きな原作からの改変点として、シンとの戦いの後に登場する「大佐(カーネル)」「ジャッカル」といった悪役をシンの配下としました。また、シンの部下としてケンシロウを監視する「ジョーカー」というキャラクターを設定しています。
このほかにもシンの配下には「南斗聖拳」の諸流派がいるというアニオリ設定で、原作には登場しない南斗の使い手が何人も登場しました。それらが毎週倒されていくという展開が、アニメ初期の『北斗の拳』での見どころとなります。
このアニオリ南斗聖拳には、拳法らしい技もいくつかあるものの、なかには超能力としか思えないものもあり、「南斗暗鐘拳」の「ザリア(第15話)」は鐘の音で民衆を洗脳し、死体をよみがえらせるなどの能力を持っていました。拳法というよりも妖術でしょうか。
拳法ではなく、近代兵器を利用したものもありました。人間大砲を使った「南斗人間砲弾」の「ガレッキー(第19話)」や、ヘリコプターまで使った「トウダ(第20話)」の「南斗列車砲」などです。原作キャラクターであるジャッカルも、ダイナマイトを使った「南斗爆殺拳(第12話)」という技を使いました。これを見たケンシロウも「火薬に頼って何が拳法だ」というツッコミを入れます。
こういったアニメならではの展開も魅力でしたが、ファンの話題になることが多いのはやはり「予告編」の名調子でしょうか。ナレーションも務める千葉繁さんの怪演が脳裏に焼き付いている人も多いことでしょう。
この予告編は徐々に読み上げるテンションが高くなっていくことで知られています。しかし、千葉さんは「このままでは体が持たない」「頭の血管が切れるのではないか」と考え、アニメ続編となる『北斗の拳2』からは活動弁士口調へと切り替えました。ところが、ファンから「やめないで」という投書が多数、寄せられたことで、もとのような調子に戻したそうです。
このようなアニメスタッフの努力が、TVアニメ作品としての『北斗の拳』も名作としたのでしょう。40周年のこの機会に気になった部分をもう一度、視聴するのもいいかもしれません。
(加々美利治)