手塚治虫原作『アポロの歌』が深夜ドラマ化 「黒手塚」の実写化は時代が求めている?
ヒューマニズムあふれる作風のマンガで人気を博した手塚治虫先生ですが、人間の愚かさや業の深さをえぐり出した「黒手塚」と称される作品が、近年は再評価されています。ハードな内容ながら、「黒手塚」はテーマ的に古びることがなく、監督や俳優にとっては挑みがいのある作品です。「黒手塚」の実写化は時代が求めているのかもしれません。
佐藤勝利、高石あかりのW主演作としてスタート

日本初のTVアニメシリーズとなった『鉄腕アトム』は、2023年にNetflixアニメ『PLUTO』としてリメイクされました。2024年には高橋一生さん主演作として『ブラック・ジャック』がテレビ朝日系で実写ドラマ化されました。「マンガの神さま」手塚治虫先生が残した名作マンガの数々は、今も多くの人に愛され続けています。
同じく手塚治虫原作の『アポロの歌』が、2025年2月18日(火)の深夜から、TBS・毎日放送系で放映されます。NHK連続テレビ小説『ばけばけ』のヒロインに抜擢された高石あかりさん(※「高」は正しくは、はしごだか)、映画『ハルチカ』(2017年)などに出演した佐藤勝利さんのW主演ドラマです。
1970年に「週刊少年キング」(少年画報社)で連載された『アポロの歌』ですが、いわゆる「黒手塚」と呼ばれ、映像化が難しいと思われてきた作品です。70年代にTVアニメ化が企画されていましたが、頓挫しています。『チワワちゃん』(2019年)や『とんかつDJアゲ太郎』(2020年)などを撮った二宮健監督は、55年前に発表された原作を現代的にどうアレンジするのでしょうか。
人間の愚かさをえぐり出す「黒手塚」
数々のヒット作を生み出した手塚治虫先生ですが、その一方、名医ブラック・ジャックのメスさばきと同様に、人間の心の暗部もペンによって鮮やかに摘出してきました。それが「黒手塚」と呼ばれる作品です。
人間の業の深さ、愚かさが、「黒手塚」作品ではこってりと描かれます。救いのない、バッドエンディングのものがほとんどです。ギリシア神話をモチーフにした『アポロの歌』では、母親に幼少期から虐待されてきた主人公・近石昭吾は、動物たちを平気で殺す冷酷な若者に育ちます。やがて昭吾は精神科病棟に送られ、壮絶な体験をすることになります。
精神科での療養中、昭吾は若い女性に好意を寄せることになるのですが、昭吾の気持ちが通じた直後にその女性は亡くなってしまいます。療養中に見た夢だと気づきますが、病院から逃げ出した昭吾は夢で見た女性にそっくりな渡ひろみと出会います。そして、同じような悲劇が繰り返されるのです。際限なくループされる悲劇の果てに、昭吾は真実の愛を知るのでした。
斬新なループ設定に加え、男女の恋愛を医学的視点も交えて突き詰めたハードな内容は、現代だからこそ映像化が可能になったのではないでしょうか。