手塚治虫原作『アポロの歌』が深夜ドラマ化 「黒手塚」の実写化は時代が求めている?
同性愛シーンを省き、ファンから不評だった『MW』
映像化が容易ではないとされてきた「黒手塚」作品ですが、普遍的な人間性を描いた面白さがあることから、演技力に定評のあるキャストを起用して今世紀になってから映像化されるようになりました。「黒手塚」は意外と実写化に向いているとも言えそうです。
有名なのは、極秘開発された化学兵器の恐ろしさを描いた実写映画『MW ムウ』(2009年)でしょう。エリート銀行員ながら、連続殺人鬼という裏の顔を持つ主人公・結城を玉木宏さん、主人公を昔から知る教会の神父・賀来を山田孝之さんが演じています。
原作のイメージにうまく合った配役の実写版『MW』でしたが、結城と賀来との同性愛シーンが劇中ではいっさい描かれておらず、原作ファンから不評を買うことになりました。キャスト側は同性愛シーンもOKだったそうですが、制作サイドがスポンサーを説得できなかったようです。生半可な姿勢で「黒手塚」に挑むと、逆に手痛い目に遭ってしまいます。
タブー的要素に果敢に挑んだのが、手塚眞監督の『ばるぼら』(2020年)です。幼いころから父・手塚治虫の作品に親しんできた手塚眞監督ゆえに、エロティシズムやアンモラルといった「黒手塚」の危険な魅力をR15指定ギリギリの枠内で実写化しています。
手塚眞監督いわく「キャスティングが難航した」ことから、企画から映画の完成まで5年の歳月を費やしていますが、そのことが幸いしました。稲垣吾郎さんが大手芸能事務所を離れ、二階堂ふみさんも成人したタイミングとなり、過激なシーンもNGなしで演じ切っています。「マンガの神さま」と「ビジュアリスト」との親子コラボによる『ばるぼら』のクライマックスの衝撃展開は、常識という概念を粉々に砕いてみせます。
Netflixドラマ『極悪女王』などで知られる白石和彌監督は、WOWOWドラマ『人間昆虫記』を2011年に撮っています。『ばるぼら』にも出演していた美波さんの主演作で、井浦新さん、滝藤賢一さん、北村有起哉さんらが脇を固めたハードな犯罪サスペンスでした。白石監督は『人間昆虫記』の後、実録犯罪映画『凶悪』(2013年)をヒットさせ、いっきにブレイクしています。
次に実写化してほしい「黒手塚」作品は……?

まだまだ「黒手塚」と呼ばれる作品はあります。美しいものを憎む犯罪者集団を描いた『アラバスター』、日本の村社会の閉鎖性を告発した『奇子(あやこ)』、進化した鳥類が人間を奴隷として扱う『鳥人大系』、飛行機墜落事から生還した8人のその後を描いた『ダスト8』、両腕を奪われた主人公の復讐劇『鉄の旋律』、ドイツに実在した殺人鬼とその妻を主人公にした『ペーター・キュルテンの記録』などが知られています。
壮大なスケールを誇る歴史ドラマ『アドルフに告ぐ』、医学界の闇を暴いた『きりひと讃歌』など、まだ映像化されていない人気作も少なくありません。『きりひと讃歌』の人間テンプラのシーンは、現代ならCGを使えば実写化は可能でしょう。
タブーを恐れることなく、さまざまなテーマに挑んだ手塚治虫先生。そのスピリッツを受け継ぐ現代のクリエイターたちが、「黒手塚」作品の実写化に次々と名乗りを挙げることに期待したいと思います。
※ドラマイズム「アポロの歌」は、2025年2月18日(火)より、MBSにて24:59から、TBSにて25:28から放送されます。
(長野辰次)



