マグミクス | manga * anime * game

やなせたかしが手塚治虫との仕事で「40代で気付いた才能」とは 『あんぱん』でも重要になりそう

『あんぱん』113話で、手嶌治虫が嵩にアニメ作品のキャラクターデザインを依頼します。『千夜一夜物語』で、やなせさんが気付いたこととは?

やなせさんが間近で見た手塚治虫さんの才能

柳井嵩役の北村匠海さん(2020年11月、時事通信フォト)
柳井嵩役の北村匠海さん(2020年11月、時事通信フォト)

 NHK連続テレビ小説『あんぱん』は、『アンパンマン』の作者、やなせたかしさんと妻の暢(のぶ)さんの人生をモデルにした物語です。110話のラストで流れた第23週「ぼくらは無力だけれど」の予告では、「柳井嵩(演:北村匠海)」が昔から天才と仰ぎ見ていた年下の漫画家「手嶌治虫(演:眞栄田郷敦)」と、一緒に仕事をすることが予告されています。

 手嶌のモデルは言わずと知れた「マンガの神様」手塚治虫さんで、やなせさんは実際に手塚さんから依頼を受けて、虫プロ制作のアニメ映画『千夜一夜物語』(1969年公開)にスタッフとして参加しました。最初はなぜ自分にオファーが、と思ったやなせさんですが、その現場で自分でも把握していなかった才能に気付いたといいます。

 やなせさんはさまざまな書籍で、9歳年下の天才、手塚さんと一緒に映画を作ったときのことを語っていました。

 やなせさんは漫画集団という、いわゆる「大人漫画」を描く漫画家の集団に所属しており、手塚さんも60年代に加入しています。そのため、総会や忘年会で手塚さんと何度か会っており、漫画集団で一緒に旅行に行ったこともあったそうです。とはいえ、『千夜一夜物語』の依頼はかなり唐突で、やなせさんもかなり驚いたことを振り返っています。

 自伝『人生なんて夢だけど』(フレーベル館)では、やなせさんは1967年10月のある日、手塚さんから下記のような電話がかかってきたことを語っていました。

「あ~もしもし手塚です。今度日本ヘラルドと組んで長編アニメ(千夜一夜物語)をつくります。美術監督はみんなで相談して、やなせさんがいいということになりました。よろしく」

 やなせさんはこの電話を、最初は冗談だと思ったそうです。当時、仕事は多くても漫画家としては代表作のなかったやなせさんは、手塚さんと自分を比較して「神様と毛虫、月とスッポン」とまで綴っています。

 ただ、この依頼は本当で、やなせさんは当時虫プロがあった練馬区富士見台に何度も通うことになりました。監督の山本暎一さんから「ではイメージボードでも描いていただけますか」と言われても、アニメの経験がほぼなく何のことか分からないやなせさんでしたが、だんだんと現場になじんでいきます。

 映画のクレジットでは「美術」とだけ表記されているやなせさんは、「キャラクターデザイン」も担当していました。彼は主人公の「アルディン」ほか、さまざまなキャラを考えていくうちに、「なんか心の中で弾けるもの」を感じたといいます。

 当時40代後半で、ほかの漫画家と比較して自分の才能に絶望していたというやなせさんでしたが、キャラクターはすらすらと浮かんできたのです。作中の山賊の娘「マーディア」のように、描いた当初は大したことはない役だったのが、重要なポジションにすえられることもあり、やなせさんは虫プロにいくのが楽しみになりました。2013年の著書『わたしが正義について語るなら』(ポプラ社)では、やなせさんはキャラクターデザインに関して、「あれ、もしかしたらこれが、自分の乏しい才能の一つかな」と思ったことを語っています。

 ちなみに別の自伝『アンパンマンの遺書』(岩波書店)では、やなせさんは起用の理由について、プロデューサー(おそらく製作の富岡厚司さん)から、「虫プロは鉄腕アトムのイメージが強く、スタッフも子供アニメのキャラクターに馴れているので、キャラクターは大人漫画の人に依頼しようというので、いろいろ人選した結果やなせさんに決定したんです」と言われたそうです。

 そして、このキャラクター作りの才能が活かされ、後年生まれたやなせさんの代表作『アンパンマン』のアニメ版『それいけ!アンパンマン』は、2009年7月に「単独のアニメーションシリーズで最もキャラクターの多いアニメ」としてギネス世界記録に認定されました。2009年3月までに認定されたキャラクターの数は1768体です。

 やなせさんは『アンパンマン』の各キャラの誕生経緯についても語った著書『アンパンマン伝説』(フレーベル館)で、『千夜一夜物語』のおかげで大勢の人間を描き分ける苦労を知ったことも語っていました。こだわりとしては、『アンパンマン』のキャラは基本的にコンパスで描けるような円形にして、そこから差別化していくようになったそうです。

 やなせさんは『千夜一夜物語』の興行的成功の恩恵で、手塚さんのポケットマネーで代表作の絵本『やさしいライオン』を短編アニメ映画化することもできました。のちの『アンパンマン』の多彩なキャラ誕生にもつながる手塚治虫さんとの仕事は、『あんぱん』でどのように描かれるのか注目が集まります。

 ちなみに、やなせさんは間近で見た手塚さんの仕事ぶりに関して、「(キャラクター)が愛らしくって魅力的で、絵を描くスピードは百万馬力!誰も真似できません」(『人生なんて夢だけど』より)と語っており、眞栄田さん演じる手嶌がどんな天才性を見せてくれるのかも気になるところです。

(大山くまお)

【画像】え…っ? もう「パッケージで出ちゃってる」こちらがやなせさんが手塚さんと作った「オトナ向けすぎる映画」です

画像ギャラリー

大山くまお関連記事

もっと見る

編集部おすすめ記事

マンガ最新記事

マンガの記事をもっと見る