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『あんぱん』やなせたかしは一緒に仕事をする前、手塚治虫をどう思ってた? 1966年の書籍を見ると

朝ドラ『あんぱん』第24週では、嵩が手嶌治虫とともにアニメ作品の制作に取り組みます。モデルのやなせさんの、当時の手塚治虫に対する評価はどのようなものだったのでしょう?

やなせたかしが「社会正義の本質そのもの」と評した手塚マンガとは?

手嶌治虫役の眞栄田郷敦さん(2020年2月、時事通信フォト)
手嶌治虫役の眞栄田郷敦さん(2020年2月、時事通信フォト)

 放送中のNHK連続テレビ小説『あんぱん』は、『アンパンマン』の作者、やなせたかしさんと妻の暢(のぶ)さんの人生をモデルにした物語です。第24週「あんぱんまん誕生」では、「柳井嵩(演:北村匠海)」と手塚治虫さんがモデルの「手嶌治虫(演:眞栄田郷敦)」が、ともにアニメ『千夜一夜物語』を制作する場面が描かれています。

 ドラマのなかで、嵩は手嶌に「あなたのマンガを読んで、圧倒されて、嫉妬して、落ち込んで……」と語っていました。では、実際にやなせさんは9歳年下であり、「天才」「漫画の神様」と評されていた手塚さんのことを、どう評価していたのでしょうか。

 やなせさんの自伝『アンパンマンの遺書』(岩波書店)には、「超天才手塚治虫」という章があります。『あんぱん』にも出てきた『新宝島』を発表した1947年頃の手塚さんは、既成の漫画家たちによる評価は低かったものの、多くのマンガ少年たちが衝撃を受けたことが記されています。

 別の自伝『人生なんて夢だけど』(フレーベル館)では、やなせさんは『千夜一夜物語』に取り組んでいる頃の手塚さんと自身を比較して、「神様と毛虫、月とスッポン」と表現していました。

 やなせさんは『千夜一夜物語』の現場で、より手塚さんへの尊敬の念が深まったようで、「机を並べて描いたときはあまりの凄さに声もなしで羨ましいなんて僭越なことは考えず、傍にいるだけで心がときめきました」「愛らしくって魅力的で、絵を描くスピードは百万馬力!誰も真似できません」(『人生なんて夢だけど』より)と、その才能に圧倒されたことを振り返っています。

 さて、一緒に仕事をする前は、やなせさんは手塚さんのことをどう思っていたのでしょうか。『千夜一夜物語』に取り組む前のやなせさんによる、手塚さんへの評価が詳しく書かれているのが、1966年に発売された『まんが学校』(三一書房)です。

 やなせさんが出演していたTV番組『まんが学校』を書籍化したもので、同番組の司会者だった落語家の立川談志さんとの共著という形になっていますが、実際にはやなせさんによるマンガ評論といえる内容でした。「長篇まんがについて」という章では、「ストーリーまんが」の代表例として手塚さんの名が挙げられています。

 やなせさんは手塚さんのマンガについて、「『鉄腕アトム』にしても『ジャングル大帝』にしても、ひじょうによくできたストーリーで、まんがでありながら感動をともなうものがあるのです」と高く評価し、「これはたしかに、小説でもなければ、映画でもない、そして従来のまんがでもない、ひとつの独立した表現形式として、あきらかに第三の文化をかたちづくりつつあるのです」と、適切な解説を加えています。

 さらに「わたしの好きな十人のまんが家」という章では、「日本のまんが家」の5人の筆頭に手塚さんの名を挙げていました。なお、ほかに挙げられた日本の漫画家は、白土三平さん、馬場のぼるさん、六浦光雄さん、加藤芳郎さんです。手塚さんについては、次のように記されています。

「手塚さんのいちばんすばらしいところは、ストーリーの構成がひじょうにガッチリしていることと、娯楽のための正道を歩んでいることです」

 また、当時のマンガへのバッシングを念頭に置きつつ、「けっして手塚さんのまんがを読みすぎて品性が堕落していくというようなことはありません」と断言しています。また、『ジャングル大帝』を読んで泣いた子供たちについて、「おそらく社会正義の本質そのものについて、子どもたちは手塚まんがから学んだのではないでしょうか」と記していました。

『ジャングル大帝』の結末は、「ムーン山」で猛吹雪に遭った主人公の「レオ」が恩人の「ヒゲオヤジ」に自分を食べさせるという衝撃的なもので、やなせさんが後に描く、自分の頭を分け与える『アンパンマン』との共通点を感じます。『ジャングル大帝』についての「社会正義の本質そのもの」という、やなせさんの指摘も興味深いです。

 ちなみに『まんがの学校』には、やなせさんによる挿絵がふんだんに使われており、政治家の似顔絵や、藤子不二雄風、赤塚不二夫風、白土三平風、富永一朗風、アメコミ風、宇野亞喜良風など、実に多彩なタッチを見ることができます。あらためて、やなせさんの器用さを感じる1冊です。

(大山くまお)

【画像】え…っ? もう「パッケージでヒロインの胸が」「朝ドラでいいのか」こちらがやなせさんが手塚さんと作った「超オトナ向けアニメ映画」です

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