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朝ドラで本編映せる? 『あんぱん』手塚治虫がやなせたかしに依頼した「オトナ向け映画」とは?

『あんぱん』113話で、手嶌治虫が嵩にアニメ作品のキャラクターデザインを依頼します。『千夜一夜物語』とは、どんな作品だったのでしょう?

数十人の裸の女性が乱舞するエロチック大作

手嶌治虫役の眞栄田郷敦さん(2020年2月、時事通信フォト)
手嶌治虫役の眞栄田郷敦さん(2020年2月、時事通信フォト)

 NHK連続テレビ小説『あんぱん』は、『アンパンマン』の作者、やなせたかしさんと妻の暢(のぶ)さんの人生をモデルにした物語です。110話のラストで流れた第23週「ぼくらは無力だけれど」の予告には、やなせさんをモデルにした「柳井嵩(演:北村匠海)」のもとへ、手塚治虫さんがモデルの「手嶌治虫(演:眞栄田郷敦)」がやってきて、アニメ『千夜一夜物語』への協力を依頼する場面がありました。

『千夜一夜物語』は、1969年に公開されたアニメーション映画です。手塚さんが原案と製作総指揮を務め、『アラビアンナイト』を自由に翻案した大人向けの大作映画として製作されました。

 アクション、コメディー、ファンタジーの要素がふんだんに盛り込まれた本作ですが、最大の特徴はNHKの朝ドラでは本編を映せないのではないかと思ってしまうほどエロチックな描写が多い点です。冒頭の奴隷商人に売られるヒロインの場面をはじめ、ほとんどの場面で女性キャラクターは乳房を露出しており、性行為も頻繁(ひんぱん)に描かれます。

 主人公の「アルディン」が「女護島」にたどりつく場面では、何十人もの裸の女性が登場しました。当時の予告編では、「アニメーションならではのエロティシズムの極地」と謳われています。

 やなせさんは本作で、美術とキャラクターデザインを担当しました。大人向け作品なので手塚さんの丸っこい絵柄はふさわしくないと判断され、それまで大人向けのマンガを描いていたやなせさんに白羽の矢が立ったのだそうです。おそらくマンガ以外にもデザインの仕事をしていたこと、どんな仕事でもきっちりやり遂げるという業界の評判なども、起用の理由になったのでしょう。

 主役のアルディンは、フランスの俳優、ジャン・ポール・ベルモンド氏を下敷きにし、奴隷の「ミリアム」はやなせさん自身がよく描いていたキャラクターをアジア風にアレンジしました。敵役の大臣はイギリスの俳優、デヴィッド・ニーヴン氏をモデルにしています。

 筆はどんどん進み、やなせさんはキャラクターデザインにハマってしまいました。ただし、裸の女性が無数に登場する女護島の場面はどうしても描けず、この場面は手塚さんがキャラクターデザインも絵コンテもすべて描いたそうです。

 また、アラビアの世界を描いた背景美術も、やなせさんはリアリティーにこだわらず、自由にイメージを膨らませて描いていきました。

『千夜一夜物語』には、やなせさんのほかにも豪華なスタッフが参加しています。音楽は『ジャングル大帝』で知られる冨田勲さんが担当し、ファズ・ギターが印象的なロックナンバーは、ロックバンドのヘルプフル・ソウルが演奏しました。ボーカルは後に、『ルパン三世』のテーマソングを歌うチャーリィ・コーセイさんです。

 声優はマルチタレントで後に東京都知事を務めた青島幸男さんが主人公を演じ、ヒロインを女優の岸田今日子さんが演じました。その他にも「一言出演」として、作家の遠藤周作さん、小松左京さん、筒井康隆さん、落語家の立川談志さんらが参加しています。

 作画も豪華で、『あしたのジョー』を監督した出崎統さん、後に『タッチ』を監督する杉井ギサブローさんらが参加していました。杉井さんは、画面全体がピンク色になって人体の部位同士がからみ合う、印象的な濡れ場のシーンを担当しています。

 野心的な大作『千夜一夜物語』は、1969年の興行成績5位に入る大ヒットになりました。喜んだ手塚さんは、お礼にやなせさんにアニメーションの短編を監督することを提案します。そしてやなせさんは、代表作『やさしいライオン』を短編アニメ映画化して、このことが『アンパンマン』の版元であるフレーベル館との縁を深めることになるのでした。

参考:やなせたかし『アンパンマンの遺書』(岩波書店)、杉井ギサブロー『アニメと生命と放浪と』(ワニブックスPLUS新書)

(大山くまお)

【画像】え…っ? もう「パッケージで出ちゃってる」こちらがやなせさんが手塚さんと作った「オトナ向けすぎる映画」です

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