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「震電」がフィクションで引っ張りだこなワケ ←悲運がもたらした「空白」のおかげ!

映画『ゴジラ -1.0』への登場も記憶に新しい「震電」は、これまでも実に多くのフィクション作品で「切り札」として描かれてきました。これほどひっぱりだこなのには、もちろん相応の理由があります。

姿かたちと来歴が「神話」を生み出した

1/48スケールプラモデル「九州 J7W1 局地戦闘機 震電」(ハセガワ)
1/48スケールプラモデル「九州 J7W1 局地戦闘機 震電」(ハセガワ)

 第二次世界大戦の終幕、日本が無条件降伏を受け入れたその陰で、ひとつの「神話」が未完のままで終焉を迎えました。局地戦闘機「震電」、その異様な姿かたちと実戦に出ることなく幻となった運命は以後、幾多のフィクションにおいて「切り札」としての輝きを与えられ続けることとなります。

 震電は、帝国海軍の要請によって1944年から開発が進められた局地戦闘機です。設計は九州飛行機、目的は本土決戦において来襲するB-29「スーパーフォートレス」を迎撃すること。最大速度750km/hという目標性能は、当時の常識を超える野心的なスペックであり、机上ではまさに「夢の戦闘機」でした。

 特筆すべきはその構造にあります。震電は、当時としては極めて異例なプッシャー式(推進式)プロペラを採用していました。プロペラが機体の後ろにあり、前方には4門の30ミリ機関砲が並びます。さらに、主翼の前方に小型の「前翼(カナード/エンテ)」を配した先尾翼機という形状もまた異形でした。機体の後部から巨大なプロペラが猛然と回転する様は、同時代の「紫電改」や「疾風」とはまったく異なる異端の姿であり、それゆえにこそ、戦後に至っても人々の記憶に深く刻まれました。

 それゆえかプラモデルも各社から発売されており、たとえばハセガワには1/48スケールの「九州 J7W1 局地戦闘機 震電」のみならず、1/72スケールのキットや計画書のみが存在する「震電改」、さらにはアニメやマンガ作品に登場したモデルと、実に多くの商品がラインナップされています。

 また、終戦直前にわずか数回の滑走、飛行試験が行われたのみで、震電は量産に至らず計画は中止されましたが、その「ほとんど飛ぶことが叶わなかった」という事実こそが、震電を神話へと昇華させることになり、そして様々なフィクションに登場させることになります。しかも単に「珍しい形の飛行機」ではなく、「if」の想像力をかき立てる要素が凝縮された最強の戦闘機としてです。

 たとえばアニメ『荒野のコトブキ飛行隊』(2019年)では、震電は物語のラスボス機として登場します。既存の機体が繰り広げる戦いの最終局面で、突如として現れる震電の圧倒的な性能、速度、上昇力、火力は、視聴者に強烈な「未知への恐れと敬意」を与えました。「見たことのないシルエット」で、「現実には存在しなかった強さ」を体現する震電は、まさに切り札としての存在感を発揮したのです。

 また、架空戦記の小説『紺碧の艦隊』(著:荒巻義雄)を原作とする同題OVAでは、震電をモデルとした架空戦闘機「蒼莱」が高高度からアメリカのB-30大型爆撃機を急降下攻撃する奇襲戦術に用いられました。これはまさに、史実で震電が担うはずであった本土防空の希望という役割の代行といえるでしょう。史実ではその高高度性能の高さに手を焼いたB-29でありましたが、さらに頭上を飛ぶ「蒼莱」の姿は、敗戦の記憶という鬱積した事実から解放され爽快感をもたらすとともに、フィクションによって歴史の穴を埋めるという象徴的な描写です。

 さらに、近年公開された映画『ゴジラ-1.0』では、震電は戦後という舞台の中で戦場に出られなかった兵器として登場します。この描写は、特攻に出ることなく終戦を迎えた主人公の心理とも重なり、自らの居場所を持てなかった者としての震電に、深い哀愁を持たせる演出となっています。

 震電がこのように「切り札」として扱われるのは、その未知数にこそ理由があるといえるでしょう。試作機がわずかに飛行試験を行っただけであり、実戦での戦果も、実際の機動性能も、確認されたものではありません。それゆえにこそ、震電は「好きなように語れる余白」を持っているのです。ですが同時に、その理想は日本の工業力や資源不足という現実によって叶えられることはなかった、「到達しえなかった未来」をも象徴しているといえます。

 震電は実戦では飛びませんでした。しかし、人々の想像の中で、震電は何度でも空へ舞い上がります。

 ハセガワ1/48スケールプラモデル「九州 J7W1 局地戦闘機 震電」は、1650円(税込)にて発売中です。

(関賢太郎)

【画像】えっ…ジェット!? こちら震電だから成立するIF「震電改」です

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