駆逐艦「雪風」なぜあんなにツイてたの? 艦の命運を左右する(?)「先任伍長」とは
映画『雪風』に描かれる駆逐艦「雪風」は、史実でも幸運艦として知られるフネでした。なぜそこまでツイていたのか、史実をあたると、そこには相応の理由があるように思われます。
「奇跡」「幸運」にも理由アリ?

2025年8月15日に公開される映画『雪風 YUKIKAZE』は、戦闘シーンも見られますが、本作の魅力はそうした「外」の戦いよりも「内」、つまり艦内の日常や人間模様にあるといえるでしょう。そこに駆逐艦「雪風」が「幸運艦」と呼ばれるようになった理由が見えてきます。
史実の陽炎型駆逐艦8番艦「雪風」は、1941(昭和16)年12月11日にフィリピン中部のレガスピー攻略戦に参加したことを皮切りに、謎の多い空母「信濃」の護衛や戦艦「大和」の沖縄特攻にも出撃しています。(駆逐艦「秋雲」を含む)19隻建造された陽炎型のなかで、雪風は終戦まで生き残った唯一の艦です。
駆逐艦は小型で使い勝手が良かったため、戦闘だけでなく、護衛、偵察監視、輸送などあらゆる任務をこなす「艦隊のなんでも屋」でした。それだけ酷使され損害も多かったのですが、開戦から大きな損傷を受けることなく、戦後まで生き残るというのは正に奇跡的です。
なぜ雪風は幸運だったのでしょうか。その鍵は艦の「気風」にあるといわれます。精神論ではありません。砲術指導のために雪風に乗艦した駆逐艦「冬月」の乗員は、雪風の整った生活環境と統率された雰囲気に驚いたと回想しています。いまでいう「4S(整理・整頓・清掃・清潔)」が自然に行き届いていたのです。
映画冒頭で、雪風が空襲を予想して機関に火を入れており、警報ですぐに動き出せた機敏ぶりに竹野内豊演じる新任艦長「寺澤一利」が感心するシーンは、実際に雪風が「超機敏艦」とも呼ばれていたことを反映してのものでしょう。
元海軍少尉で、作家の阿川弘之は「雪風は訓練がよく行き届いた艦であり、幸運艦と言ってもキューピットの気まぐれによるものというよりは、自ら助くるものを助くといった筋の通ったものの様だ」と評しています。幸運は天から降ってきたわけではないのです。
そうした、艦の個性となる気風をつくるのに大きな役割を果たしていたのが「先任伍長」です。先任伍長とは士官ではなく、下士官の最上位に位置し経験豊富なベテランが充てられ、艦長や士官からも一目置かれる存在といいます。映画では玉木宏演じる「早瀬幸平」が務めており、奥平大兼演じる若き水雷員「井上壮太」など水兵たちを指導しながら相談役にもなり、寺澤艦長にも意見する上下のパイプ役になっていました。
艦長が「父」なら、先任伍長は「母」に例えられます。