「昭和100年」に読みたい未完の名作マンガ 「幻」となった結末に挑んだ作品も?
昭和時代の人気マンガは、スケールの大きな作品が多かったことが特筆されます。あまりにも話が壮大過ぎて、未完のままとなった作品も少なくありません。GW中にじっくりと読み返したい巨匠漫画家たちの代表作を取り上げ、幻となってしまった最終回について考察します。
「昭和100年」に読みたい不朽の名作

2025年(令和7年)は「昭和100年」にあたります。昭和天皇の誕生日だった4月29日(火)は「昭和の日」として国民の祝日となっています。そんな「昭和」にちなんで、昭和時代に大人気だったものの、未完のまま終わった名作マンガを振り返ります。
壮大なスケールを誇ったSF&歴史ファンタジー大作と言えば、「マンガの神さま」手塚治虫氏が1954年から執筆を始めた『火の鳥』です。古代ヤマタイ国を舞台にした「黎明編」を皮切りに、滅亡の危機に瀕した未来人類を描いた「未来編」などが断続的に発表されました。
永遠の命を持つ「火の鳥」を物語の軸にし、いつの時代になっても争いをやめない人間の愚かな姿を通して、「生命とは何か?」という根源的なテーマを手塚氏は描き続けました。火の鳥は過去と未来を自在に行き来し、次第に物語は現代へと収斂(しゅうれん)されていくというシリーズ構成にも驚かされます。
ライフワークとして『火の鳥』を描き続けた手塚氏ですが、1989年(平成元年)に亡くなり、『火の鳥』は未完の大作となっています。
『火の鳥』結末のヒントとなる短編
手塚氏の構想では、火の鳥は最後に現代に現れることになっていたそうです。劇場アニメ『火の鳥 鳳凰編』(1986年)の公開の際に、製作総指揮を務めた角川春樹氏と対談し、自分が死ぬ直前に1コマでも物語を描いて、『火の鳥』を完結させたいと語っていました。
東京・六本木ヒルズで2025年5月25日(日)まで「手塚治虫 火の鳥展」が開催されていますが、企画監修を手掛けた生物学者の福岡伸一氏が同展覧会において、注目すべき指摘をしています。
福岡氏は『火の鳥』の最終回のヒントとして、手塚氏が1971年に発表した6ページの短編マンガ『休憩 またはなぜ門や柿の木の記憶が宇宙エネルギーの進化と関係あるか』を取り上げています。『火の鳥』の番外編とも言える『休憩』の最後のコマは、手塚氏と思われる亡骸の上に被せた布に火の鳥が舞い降りている様子を描いたものです。「手塚治虫 火の鳥展」のキービジュアルにも使われています。
このコマは、亡くなった手塚氏を火の鳥が迎えにきたように見えますが、視点を変えると、現世での寿命を全うした手塚氏が霊体となって、宇宙エネルギーである火の鳥へと進化を遂げているようにも見えます。イモムシが蝶へと羽化した瞬間のようでもあります。昆虫好きだった手塚氏ならではの、神々しいカットです。
過去と未来がひとつにつながった瞬間を描くことで、円環構造の『火の鳥』を手塚氏は完結させたかったのではないでしょうか。『火の鳥』の本当のラストを知るのは、私たち自身が昇天する時なのかもしれません。