怪獣相手の切り札「B-2爆撃機」金より高価って本当? 知るほど味わえる喪失の衝撃
『シン・ゴジラ』など多数の映画やゲームに顔を出してきたアメリカ空軍のB-2「スピリット」爆撃機は、そうしたフィクション作品のなかでは何機も破壊されてきました。その現実の姿を知るほど、それがいかにおおごとかが理解できるでしょう。
フィクションではひっぱりだこの「最強兵器」

映画のスクリーンが闇に包まれると、静寂を切り裂くように空を飛翔する異形の機影。その姿を、我々は幾度となく観てきました。まるで闇に溶け込む黒い翼、敵陣の奥深くに忍び寄り、誰にも知られぬうちに破壊の雨を降らせる……それが、アメリカ空軍の戦略爆撃機、B-2「スピリット」です。全翼機という常識を覆すシルエット、ステルス性能を極限まで追求したそのフォルムは、現実の戦場以上にフィクションの世界で存在感を放っています。
映画やアニメ、ゲームなどに見られる破壊と混迷のなかにあって、B-2はしばしば「最強兵器」として登場します。それは、B-2が持つリアリティと伝説的な価値の高さゆえだといえるでしょう。この異形の戦略兵器は高価であることでも知られています。
B-2爆撃機の1機あたりの価格は、アメリカ空軍の公式によると11億5700万ドルとされ、2025年7月現在の為替レートでおよそ1700億円にも上ります。ですがこれは機体だけにかかる費用であり、実際はステルス塗装の維持、特殊環境を要求する整備体制、そして専用格納庫の建設といった運用維持費を加味すれば、1機あたりにかかる総経費は4000億円規模に達するともいわれます。
こうした背景から、B-2はしばしば「同じ重量の金よりも高価」と揶揄(やゆ)されてきました。確かに耳目を惹(ひ)く表現ですが、B-2の重量は72.5tであり、そして仮にこれを「すべて純金でできていた」と仮定すれば、1gあたりの金価格を現在の相場である1万5000円とした場合、総額はなんと1兆円を超えてしまいます。
ですが、これはあくまで現在の金価格の話です。B-2が生産されていた1990年代当時、金の価格は1gあたり1500円前後でした。すなわち、同じ72.5tで換算すると、ざっと1000億円程度となります。ちょうど当時のB-2の単価と重なってくるので、つまり「B-2は金と同価値である」との比喩は、少なくともかつては、真実だったといえるでしょう。
では、なぜこのように法外な価格となってしまったのか。その最大の理由は、生産数の極端な少なさにあります。冷戦の終焉とともに、その数は当初の計画であった132機から、わずか21機にまで削減されてしまいました。この「少数精鋭」ぶりが、1機ごとのコストを爆発的に押し上げたのです。
それゆえ、もし1機でも喪失すれば、それは単なる軍事的損失にとどまらず、国家的象徴の一部を失うに等しいといえます。実際、2008年には1機のB-2がグアム島で離陸直後に墜落し、アメリカ空軍にとっては極めて痛烈な出来事となりました。
国としては絶対、壊してほしくない存在であるからこそ、せめてフィクションのなかでは壊してみたくなるのが人間です。例えば映画『シン・ゴジラ』(2016年)作中ではあっさりと、少なくとも2機のB-2がゴジラに撃墜されてしまいました。登場人物の「信じられない!」という叫びは、まさしく現実の軍事関係者の心情を代弁するかのようでした。
あれほど高価で、慎重に運用される兵器が、架空の怪獣によって簡単に破壊される、このフィクションの破壊力は、B-2を知る者ほど「B-2の神話性」と「その神話が壊れる瞬間の異様さ」を同時に突きつけられるという効果を発揮したといえるでしょう。
現実においては精密さと抑制の象徴であり、創作においては破壊されることでその存在を際立たせる。金より高く、そして夢よりも儚い、それが、B-2「スピリット」という兵器に託された、物語性であるともいえるかもしれません。
(関賢太郎)