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怪獣相手の切り札「B-2爆撃機」金より高価って本当? 知るほど味わえる喪失の衝撃

『シン・ゴジラ』など多数の映画やゲームに顔を出してきたアメリカ空軍のB-2「スピリット」爆撃機は、そうしたフィクション作品のなかでは何機も破壊されてきました。その現実の姿を知るほど、それがいかにおおごとかが理解できるでしょう。

フィクションではひっぱりだこの「最強兵器」

劇中でB-2はゴジラに一矢報いるも、あえなく撃墜されている。映画『シン・ゴジラ』より (C)2016 TOHO CO. LTD.
劇中でB-2はゴジラに一矢報いるも、あえなく撃墜されている。映画『シン・ゴジラ』より (C)2016 TOHO CO. LTD.

 映画のスクリーンが闇に包まれると、静寂を切り裂くように空を飛翔する異形の機影。その姿を、我々は幾度となく観てきました。まるで闇に溶け込む黒い翼、敵陣の奥深くに忍び寄り、誰にも知られぬうちに破壊の雨を降らせる……それが、アメリカ空軍の戦略爆撃機、B-2「スピリット」です。全翼機という常識を覆すシルエット、ステルス性能を極限まで追求したそのフォルムは、現実の戦場以上にフィクションの世界で存在感を放っています。

 映画やアニメ、ゲームなどに見られる破壊と混迷のなかにあって、B-2はしばしば「最強兵器」として登場します。それは、B-2が持つリアリティと伝説的な価値の高さゆえだといえるでしょう。この異形の戦略兵器は高価であることでも知られています。

 B-2爆撃機の1機あたりの価格は、アメリカ空軍の公式によると11億5700万ドルとされ、2025年7月現在の為替レートでおよそ1700億円にも上ります。ですがこれは機体だけにかかる費用であり、実際はステルス塗装の維持、特殊環境を要求する整備体制、そして専用格納庫の建設といった運用維持費を加味すれば、1機あたりにかかる総経費は4000億円規模に達するともいわれます。

 こうした背景から、B-2はしばしば「同じ重量の金よりも高価」と揶揄(やゆ)されてきました。確かに耳目を惹(ひ)く表現ですが、B-2の重量は72.5tであり、そして仮にこれを「すべて純金でできていた」と仮定すれば、1gあたりの金価格を現在の相場である1万5000円とした場合、総額はなんと1兆円を超えてしまいます。

 ですが、これはあくまで現在の金価格の話です。B-2が生産されていた1990年代当時、金の価格は1gあたり1500円前後でした。すなわち、同じ72.5tで換算すると、ざっと1000億円程度となります。ちょうど当時のB-2の単価と重なってくるので、つまり「B-2は金と同価値である」との比喩は、少なくともかつては、真実だったといえるでしょう。

 では、なぜこのように法外な価格となってしまったのか。その最大の理由は、生産数の極端な少なさにあります。冷戦の終焉とともに、その数は当初の計画であった132機から、わずか21機にまで削減されてしまいました。この「少数精鋭」ぶりが、1機ごとのコストを爆発的に押し上げたのです。

 それゆえ、もし1機でも喪失すれば、それは単なる軍事的損失にとどまらず、国家的象徴の一部を失うに等しいといえます。実際、2008年には1機のB-2がグアム島で離陸直後に墜落し、アメリカ空軍にとっては極めて痛烈な出来事となりました。

 国としては絶対、壊してほしくない存在であるからこそ、せめてフィクションのなかでは壊してみたくなるのが人間です。例えば映画『シン・ゴジラ』(2016年)作中ではあっさりと、少なくとも2機のB-2がゴジラに撃墜されてしまいました。登場人物の「信じられない!」という叫びは、まさしく現実の軍事関係者の心情を代弁するかのようでした。

 あれほど高価で、慎重に運用される兵器が、架空の怪獣によって簡単に破壊される、このフィクションの破壊力は、B-2を知る者ほど「B-2の神話性」と「その神話が壊れる瞬間の異様さ」を同時に突きつけられるという効果を発揮したといえるでしょう。

 現実においては精密さと抑制の象徴であり、創作においては破壊されることでその存在を際立たせる。金より高く、そして夢よりも儚い、それが、B-2「スピリット」という兵器に託された、物語性であるともいえるかもしれません。

(関賢太郎)

【画像3枚】ラスボス感あふれる「全翼機」を上から下から

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関賢太郎

1981年生まれ。航空軍事記者、写真家。航空専門誌などにて活躍中であると同時に世界の航空事情を取材し、自身のウェブサイト「MASDF」(http://www.masdf.com/)でその成果を発表している。著書に『JASDF F-2』など10冊以上。