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萩原健一×水谷豊『傷だらけの天使』最終回の衝撃 脚本にない即興演出とは?

脚本には書かれていなかった「伝説のエンディング」

 土曜の夜10時の放送と時間帯が遅かったこともあり、視聴率はなかなか伸びなかったもの、最終回はシリーズ最高となる18%を記録しています。また、再放送のたびに注目を集めました。そして『傷天』が「伝説のドラマ」となったのは、あの最終回があったからでしょう。

 ヤバい仕事に手を出していた綾部は「もう日本は終わりよ」と言い、海外へ高跳びすることを決めます。綾部は片腕役の辰巳(岸田森)ではなく、修をひとりだけ連れて行こうとします。修のことを「アニキィ~」と慕っていた亨を残し、修は綾部とともに海外へ行くことを決心します。今のままの生活を、いつまでも続けるのは無理だと考えたのです。

 ペントハウスに残された亨は、風邪をこじらせてあっけなく死んでしまいます。結局、亨のことを放っておけずに戻ってきた修は、亨の死体をリヤカーに乗せ、夢の島にまで捨てにいくのでした。アメリカンニューシネマを思わせる、ザラザラと乾いたエンディングでした。

 脚本には亨の死体を夢の島へ捨てにいくシーンも、その前にドラム缶風呂に亨を入れ、童貞のまま死んだ亨の裸体にヌードグラビアを貼り付けるト書きもありませんでした。『アナザーストーリーズ』に出演した水谷豊さんは、最終回を任された工藤栄一監督の即興演出だったと明かしています。

 俳優業を辞めることなく続けた水谷豊さんが、2019年に亡くなった萩原健一さんに「もう一度会えるとしたら何をしたい?」と『アナザーストーリーズ』のディレクターに問われ、「いま共演したいですね」と笑顔で語った様子も印象的でした。

「あの時代だから撮れた」というショーケンの言葉

 その後も『前略おふくろ様』『祭ばやしが聞こえる』(日本テレビ系)などで活躍した萩原健一さんを、一度だけ取材したことがあります。『傷天』の脚本家のひとりだった柏原寛司氏がシナリオを書いた『豆腐屋直次郎の裏の顔』(テレビ朝日系)の撮影現場で、カメラのセッティングを待っている萩原さんに、『傷天』はどんな位置にある作品なのかを尋ねました。

 昔の話をするんじゃないよと怒られるかなと思いきや、萩原さんは「ニカッ」と笑い、ひと言コメントしてくれました。

「あのドラマは、あの時代だから撮れた作品だよね。スタッフ、キャスト、すべてがピタッとそろった作品だったと思うよ。もう、あんなドラマは作れないんじゃないかな」

 新米記者の質問に、とても真摯に答えてくれました。萩原さんにとって『傷天』は、20代前半の青春期に撮った大切な思い出の作品だったようです。もしかすると、日本のテレビドラマ界の青春時代を代表するドラマなのかもしれません。

『傷だらけの天使』はU-NEXTやAmazonプライムで配信中なので、かつてのファンも、まだ観たことのない人も、あの時代の熱気や自由度の高さに触れてみてはいかがでしょうか。

※本文の一部を訂正しました。(2025.8.4 9:40)

(長野辰次)

【画像】「えっ、衝撃作品多すぎ?」これが『傷だらけの天使』キャストが出演した作品です(5枚)

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長野辰次

フリーライター。映画、アニメ、小説、マンガなどのレビューや作家インタビューを中心に、「キネマ旬報」「映画秘宝」などに執筆。現在公開中の『八犬伝』(キノフィルムズ配給)の劇場パンフレットなどにもレビューを寄稿している。