花沢さんは「アハハ」波平、マスオは? 『サザエさん』声優たちの「最後のセリフ」が深い
放送開始から実に50年以上のアニメ『サザエさん』は主要キャラの声優交代がこれまで何度も行われ、その度にニュースとなりました。そんな『サザエさん』声優の最後のセリフを、キャラクター別に特集しました。
波平もマスオもタラちゃんも「らしさ」を残して声優交代
アニメ『サザエさん』(原作:長谷川町子)で長年、花沢さん役を務められた山本圭子さんが、2023年10月29日に役を卒業し、渡辺久美子さんにバトンタッチしました。「磯野くーん」と文字だけ読んでも、あの印象的なダミ声が頭のなかで再生されるのではないでしょうか。
山本圭子さんによる最後の花沢さんのセリフは「あはは」と実にシンプルなものでした。短いながらも、花沢花子というキャラクターの鷹揚で豪快な雰囲気が凝縮されています。なお、後任の渡辺久美子さんもまた、花沢イズムを継承しています。
『サザエさん』の声優さんの交代は毎回、大きな話題を集めてきました。近年の主要な『サザエさん』声優の最後のセリフは、どんなものだったのでしょうか。
1969年の放送開始からフグ田タラオ役を務められた貴家堂子さんは、惜しまれながらも2023年2月5日に逝去されました。50年以上にわたって演じてきた「タラちゃんボイス」は、日本中に染み渡っています(後任は愛河里花子さん)。
そんな貴家さんの最後のタラちゃんのセリフは「パパはいつも遊んでくれるですよ」でした。あどけなくも家族愛にあふれた言葉で、最後までタラちゃん口調を全うしたのです。
そのタラちゃんの「パパ」である、マスオさんの声優交代も話題になりました。1978年6月から、40年以上にわたり2代目マスオさん役を担当されたのが増岡弘さんです。
そんな増岡さんは、2019年8月18日の放送分をもって、田中秀幸さんと交代しています(増岡さんはその後、2020年3月21日に逝去)。増岡さんのマスオ役としての最後のセリフは、磯野家全員でスイカを食べながらの「あはは」でした。奇しくも花沢さんと一緒です。
とはいえ増岡さんらしい、実に大らかなマスオボイスがありありと浮かびます。『サザエさん』に代表される家族の団欒を最後に、増岡さんは卒業されたのでした。
前出のタラちゃん役・貴家堂子さんと同じく、放送開始からずっとフネ役を務められていた麻生美代子さんは2015年9月27日より、今の寺内よりえさんに交代しました。(麻生さんは2018年8月25日に逝去)。そんな麻生さんの最後のフネのセリフは買い物から帰ってきたサザエに対しての、「おかえり。ずいぶん、買い込んできたね」です。呆れていながらも包容力に満ちたセリフは今振り返っても、胸にこみ上げてくるものがあります。
また放送開始から長らく磯野波平役を演じていた永井一郎さんは、「バカモン」「左様」に代表されるセリフで波平の確固たるイメージを世に送り続けました。そんな永井さんは2014年1月27日に急逝、同年2月9日の放送分までの出演となりました。最後のセリフは、「うっかり道も教えられんわ!」です。
なお、このセリフが出た回は「波平、親切騒動」というタイトルで、波平が主役でした。帰宅後に「疲れたから少し休ませてくれ」と呟いたり、風呂でカツオに「人に親切にすることを心掛けなさい」と説いたりと、父・波平らしいセリフの目白押しです。放送当時、ネットの実況も惜別の声一色となりました(もちろん、後任の茶風林さん演じる波平役も今や定着しています)。
放送開始から50年以上が経過しているため、声優さんの交代は止むを得ず、だからこそ「最後のセリフ」がより尊いものとして胸に残ります。こうした声のイメージは、バトンを受け継いだ後任声優さんによる『サザエさん』が続く限り、思い返されるのです。
現在、放送開始からの出演は主役・サザエさんを演じる加藤みどりさんのみとなりました。今回紹介した全ての「最後のセリフ」を主役声優が受け止めている事実は、想像以上に重要な意味を持つのかもしれません。
(片野)