『あんぱん』実は前にも出てきてた「フランケンシュタイン」が話題に やなせたかしが強く影響を受けた「映画と小説で全然違う」名作とは
『あんぱん』123話で『フランケンシュタイン』の名前が出て話題になっています。実は、やなせたかしさんも『フランケンシュタイン』の映画、小説から多大な影響を受けていました。
そういえば卒業制作にも「フランケンシュタイン」が

『アンパンマン』の作者、やなせたかしさんとその妻の暢さんをモデルにした2025年前期のNHK連続テレビ小説『あんぱん』の123話では、ミュージカル『怪傑アンパンマン』の「アンパンマン」の登場シーンの演出の打ち合わせのなかで、「柳井嵩(演:北村匠海)」の口から『アンパンマン』の世界観に「井伏鱒二、太宰治、フランケンシュタイン」が反映されていることが語られました。
実際、やなせさんはいくつかの自伝で井伏作品、太宰作品、そしてメアリー・シェリーの小説『フランケンシュタイン』(1818年)、1931年のボリス・カーロフ主演の映画『フランケンシュタイン』からの影響について語っています。
自伝『アンパンマンの遺書』(岩波書店)では、官立旧制東京高等工芸学校図案科(現:千葉大学工学部総合工学科デザインコース)在籍時にやなせさんが学校新聞を作っていた際、古本屋で井伏鱒二の『夜ふけと梅の花』という小説に出会ったのをきっかけに、井伏作品のファンになり、文体を真似するようになったことがつづられていました。そのうち、やなせさんは井伏鱒二に弟子入りしていた太宰治の作品にも心酔します。
やなせさんはふたりの作品を好きになった理由に関して、「本質的には詩人」「文体が詩のリズムを持っている」「ぼくは、二人の作家の『詩心とメルヘン』の部分に強く惹かれたことになる」と、詩人としても活躍し、『詩とメルヘン』(サンリオ)編集長にもなった人物らしい分析を語っていました。
そして、さまざまな書籍ではっきりとアンパンマンに影響を与えた要素のひとつと記されているのが、『フランケンシュタイン』および作中に登場する「フランケンシュタインの怪物(フランケンシュタインは怪物を作った博士の名前)」です。
『あんぱん』でも、26話で美学校時代の嵩が同級生の「辛島健太郎(演:高橋文哉)」と映画『フランケンシュタイン』を観て、強く感動する場面がありました。また、嵩が卒業制作で描いた銀座の風景の絵の奥にも、フランケンシュタインの怪物らしき人物が描かれています。『アンパンマンの遺書』でも、やなせさんは学友と映画をたくさん見たなかで『フランケンシュタイン』が特に印象に残ったことを語っていました。
やなせさんは著書『わたしが正義について語るなら』(ポプラ社)の「ぼくはこんな本に影響を受けてきた」という項では、小説『フランケンシュタイン』に関して「科学的に生命を創造するというテーマに強く影響を受けて、ぼくはアンパンマンを書きました」と述べています。
たとえば、『詩とメルヘン』で連載されたマンガ『熱血メルヘン怪傑アンパンマン』は、嵐の夜にアンパンマンが登場するところから始まっており、こちらは映画『フランケンシュタイン』で、死体をつなぎ合わせて作られた怪物が嵐の夜に雷の高圧電流を浴びて動き出す場面の影響を受けたそうです。
また、やなせさんは若き日に映画→小説の順番で『フランケンシュタイン』に触れたとのことで、原作の怪物が映画よりはるかに「知的で抒情的」であることに驚いたといいます。そして、優しい性格ながら恐ろしい容貌ゆえに人びとに恐れられ、自分の仲間を作るのを止めてしまった博士への復讐として人を殺し始める孤独で悲しい怪物のことが、心に残っていたそうです。
さらに、モーリス・メーテルリンクの童話『青い鳥』に登場する「パンの精」の影響も受けたとのことで、『わたしが正義について語るなら』では「このパンの精が幼児体験としてインプットされて、フランケンシュタインと合体してアンパンマンになったのだと思います」と書かれていました。
ちなみに、やなせさんは21歳の若さで『フランケンシュタイン』を発表し、絶世の美少女だったと言われる作者のメアリー・シェリーのことも気になっていたそうで、自伝『人生なんて夢だけど』(フレーベル館)では、1991年の漫画家仲間とのベルギー旅行を抜け出してロンドンに寄り、ナショナル・ポートレート・ギャラリーまでメアリーの肖像画を見に行ったことが語られています。
やなせさんが繰り返しその影響を語っていた名作ゆえに、『あんぱん』でも『フランケンシュタイン』が複数回出てきたのでしょう。小説は423ページ(光文社古典新訳文庫)となかなかの長編ですが、映画は71分しかなく各種配信サービスで観られるので、この機会に触れてみるのもいいかもしれません。
※本文の一部を修正しました(2025年9月17日20時15分)
(マグミクス編集部)
