『戦争めし』の魚乃目三太氏 日本人の「食卓」描いて伝えたいこととは
『戦争めし』『宮沢賢治の食卓』など、話題の食マンガを手がけている魚乃目三太さんのイラスト集『魚乃目三太のマンガめし画帖 幸福ゴハンのきのう・きょう・あした』(玄光社)が、2022年8月16日に発売されます。このことを記念し、歴史や文学作品を取り込んで食マンガの新境地を開いた、魚乃目三太さんにお話を聞きました。
カツ丼にナポリタン、焼き餃子…日本人のリアルな食卓描く

累計発行部数35万部の『戦争めし』などの人気「食マンガ」を手がけるマンガ家・魚乃目三太さん。そのデビュー15周年を記念して、画集『魚乃目三太のマンガめし画帖 幸福ゴハンのきのう・きょう・あした』(玄光社)が発売されます。近年、食マンガのストーリーが多様化するなか、魚乃目三太さんは独自の作品世界を貫いて、読者の共感を集めています。「食べることは、生きること」と語る魚乃目三太さんに、創作の裏話をお聞きします。
「実は、食マンガを描くことに特別なこだわりはないんです」
食マンガのホープとして知られる魚乃目三太さんに、「食事」をテーマとする理由を尋ねると、返ってきたのは意外な答えでした。
「大好きな江戸時代の絵師・東洲斎写楽のお話も描いてみたいし、いろんな分野に興味がある。食べることが好きな僕ですが、マンガに関しても『食いしん坊』なのかもしれませんね」
大学卒業後、建設関連の会社に勤めていたという魚乃目三太さん。今も土木工学に興味があり、建設に携わる人びとの物語をいつか描いてみたいと笑顔で語ります。
サラリーマン生活の傍らでマンガを描き続けた魚乃目さんは、30代を迎えたのを機に念願のマンガ家デビュー。
「子どもの頃からお話を考えるのが好きで、ノートに構想をたくさん描き留めていました。そんな僕が、初めて“食”をテーマに描いたマンガが『祖母(おばあ)のカツ丼』です。
2010年に食マンガの専門誌として登場した「思い出食堂」(少年画報社)の第2号「おふくろの味編」に寄稿した作品で、以来10年以上「思い出食堂」に短編を執筆し続けています。
僕が描くのは豪華グルメではなくて、日常的にみんながよく食べている食事がほとんどです。僕は、フツウの人たちのドラマに興味がある。普通に生きているのになぜか思いがすれ違っていく……日常的な食事を背景に、動き出すドラマを描きたいと思っているんです」

祖母と少年の家族愛を描いた『祖母(おばあ)のカツ丼』は、魚乃目三太の食マンガデビューを飾る快作として評価を受けました。一躍「思い出食堂」看板作家のひとりとなった魚乃目三太さんは、同誌の表紙イラストを任されるようになります。
「『思い出食堂』〈夏の味編〉の表紙に描いた駄菓子屋のイラストは、僕の子ども時代の体験そのまま。プール帰りの子どもが、水着のまま入店している様子まで描いていて、もう二度とこういった作品は描けないと思う。お気に入りの1枚で、今回発売する画集『魚乃目三太のマンガめし画帖』にも掲載しています」