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【本日放送】大人も見るべき『若おかみは小学生!』 吉田玲子脚本の「日常x魂の再生」とは

主人公のもとに返ってくる温かいブーメラン

アニメ『けいおん!』
アニメ『けいおん!』

 全20巻ある令丈ヒロ子さんの児童小説を上映時間94分にうまくまとめたのは、高坂希太郎監督と脚本家の吉田玲子さんです。高坂監督は自転車レースを題材にした監督作『茄子 アンダルシアの夏』(2003年)や自分の夢を追い続けた航空技術者を主人公にした『風立ちぬ』(2013年)の作画監督として知られています。吉田玲子さんは『おじゃる丸』(NHK Eテレ)や『けいおん!』(TBS系)といった日常アニメの名手として人気があります。

 のほほんとした主人公たちが体験するささいな出来事を丁寧に描き出すことで、日常生活の楽しさを伝えることに吉田玲子さんは優れています。また、山田尚子監督の『映画 聲の形』(2016年)や湯浅政明監督の『きみと、波にのれたら』(2019年)などの劇場アニメの脚本も手掛けています。

『聲の形』や『きみと、波にのれたら』の主人公たちは心に深い傷を負っていますが、他者との関わりの中で、徐々に日常生活を取り戻し、心の傷を癒していきます。『若おかみ』のおっこも、ウリ坊たちに背中を押され、クセのあるお客さんやクラスメイトたちとも触れ合えるようになっていきます。

 つらい体験をしたおっこですが、その分だけ他の人たちに優しく接することができるようになります。おっこに勇気づけられたお客さんは元気になり、おっこ自身も元気をもらいます。優しさが温かい大きなブーメランになって、おっこのもとに戻ってくるのです。

「もうひとりの自分になれる世界」の大切さ

 吉田玲子さんのヒット作に『けいおん!』や『ガールズ&パンツァー』(TOKYO MX)などがありますが、『けいおん!』の女子高生・唯も、『ガルパン』のみほも、普段はあまり目立つタイプではありません。でも唯はバンド活動しているとき、みほは「戦車道」に熱中しているとき、誰よりもキラキラと輝きます。日常生活とは異なる、もうひとりの自分になれる世界を持っていることが、唯やみほに元気を与えています。

 同じことが『若おかみ』のおっこにも言えます。旅館での修業や映画の後半では伝統ある神楽の稽古に、おっこは打ち込みます。唯もみほもおっこも、学校と自宅を往復するだけの毎日では弾けられなかったはずです。日常生活とは異なる別の居場所、自分を解放する表現手段を持つことは、心の健康のためにも大切なことなのかもしれません。

 他人と触れ合いながら、自分の居場所をつくることで、おっこは少しずつ成長していきます。おっこが大人になるにつれ、ウリ坊たちの姿は次第に見えなくなってしまいます。ウリ坊たちとのお別れは寂しいけれど、それはおっこがすっかり元気になった証拠でもあります。

 小さな温泉旅館を舞台にした『若おかみ』は、出会いと別れの物語です。子供のころ、自分の心のなかに住んでいたイマジナリーフレンドと一緒に冒険に繰り出した記憶はないでしょうか? 孤独感を癒してくれた懐かしい仲間との思い出が、よみがえる人もいるかもしれません。

(長野辰次)

●【公式】映画『若おかみは小学生!』本予告

【画像】魅力ある日常生活から自分を取り戻す、吉田玲子脚本のアニメ作品(6枚)

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