『逆転イッパツマン』放送40周年 「悪が勝った」エピソードの真相とは?
「自分たちが倒した」と勘違いする三悪

本作『イッパツマン』を語るとき、必ずといっていいほど話題となるのが「悪が勝利する回」があることです。ところが実のところ、勝ったのは「悪」ではありますが、シリーズお馴染みの「三悪」ではありません。この点を少し説明しておこうと思います。
悪が勝利したのは第30話「シリーズ初! 悪が勝つ」となります。本作での三悪は業界2位の巨大企業「シャレコーベリース社」のオストアンデル北部支社に所属する会社員……という設定になっており、ライバル企業である「タイムリース社」の業務を妨害する役どころでした。
しかし妨害を行おうとすると、どこからともなくイッパツマンが現れて、せっかく用意した巨大メカも逆転王に倒される始末。当然成績は万年最下位なのですが、そんな三悪を尻目にシャレコーベリース社のエリート支社長として登場し、イッパツマンを苦しめていたのが、隠球四郎(かくれ たましろう)でした。
問題の30話では、まず三悪が逆転王に対して瞬間硬化弾を使用し、動きを封じます。このとき、密かに待機していた球四郎がダイヤモンド弾丸で逆転王の眉間を撃ち抜き、メインコントロールを破壊したのです。やむを得ず逆転王を降りたイッパツマンに対しても球四郎は狙撃を敢行し、銃弾を受けたイッパツマンは爆散してしまうのです。
当時、このシーンを見た筆者は、しばらく呆然としていたことを覚えています。正義が、イッパツマンがやられるなんてありえない、と。もし現代のようにインターネットが存在していたら、間違いなくさまざまなSNSが大荒れになっていたでしょう。
このとき三悪は、自分たちが逆転王とイッパツマンを倒したと勘違いして「次回からは自分たちが主人公だ!」と大喜びしており、球四郎の行動には気づいていなかったのです。
このとき倒されたイッパツマンは、実は豪がコントロールしていたサイキックロボットであり、該当シーンをよく見ると傷口がバチバチとスパークしているなど、実は人間ではないことが巧みに描写されています。そもそも人間は銃弾を受けても爆散しないのです。
とはいえ、家庭用ビデオデッキもまだあまり普及していない時代だったので見返して確認することもできず、次回までやきもきした子供たちも多かったのではないでしょうか。
結局、翌週以降は豪が自らイッパツマンに変身するようになり、ロボットもよりパワーアップした三冠王が登場します。アニメ定番のパワーアップ回をこれほど劇的な展開としたことに脱帽する思いです。
『イッパツマン』は最終的に放送が延長され、全58話で終了しました。新たな取り組みが相乗効果を発揮し、人気作となった好例といえるでしょう。
しかしながら『タイムボカンシリーズ』は本作を持って関東圏での夕方18時半の放送を終了し、次作『イタダキマン』は19時半からの放送となりました。また、シリーズを通じ脚本を執筆した小山高男氏と音楽を担当した山本正之氏も外れることとなり、『タイムボカンシリーズ』は一旦の終焉に向かいます。『イッパツマン』は子供たちを楽しませようと力を注いでくれた方々が生み出した、最後の結晶のような存在だったのかもしれません。
(早川清一朗)