声の世界を「オトコ色」に変えた革命児・立木文彦 ブレイクまでの「3つの仕事」
「やれんのか! やれんのか! やれんのか!」

ステップ2は『PRIDE』を筆頭とする格闘技大会の「オープニングや選手紹介ナレーション」でしょう。格闘技ブームの1990年代後半、アリーナレベルのビッグイベントでは試合前に見どころをまとめた「あおりVTR」を流す演出が恒例になります。その声に起用されたのが立木さんでした。ドスの利いたしゃがれ声のあおりナレーションは闘い前の興奮をアゲアゲにしてくれました。
代表的なのは『PRIDE やれんのか! 2007年大晦日』のOP「やれんのか! やれんのか! オレやる! たとえ地球上のどの場所で生まれていたとしても、きっと彼らならこの頂でめぐり逢っていたはず。さあはじまる、やれんのか! ついてこい!(※一部抜粋)」。もちろん映像の力も原稿の妙味もありますが、そこに声の命をガッツリ吹き込みました。「PRIDEの声と言えば立木」、これはファンも承知のところです。
ここからの派生で活動の幅を広げたのが「ももいろクローバーZ」とのセッションです。『PRIDE』の演出家がももクロのライブを担当した縁から、大型ライブのオープニングあおりVTRの声を担当。あの男臭い声がアイドルと絡む面白さが現在の多様性につながったのかもしれません。ちなみに今年の夏の「夏のバカ騒ぎMOMOFEST」ライブでもOP映像が流れ、立木さんの第一声「あの夏はどこ行った……」でモノノフは湧きました!
格闘技ナレーションで声の認知度が増し、2005年頃からいろいろなジャンルの仕事が増えてゆきます。ステップ3は、2007年アニメ『逆境無頼カイジ』でしょう。さまざまなギャンブルを題材にした闇世界の物語に低音しゃがれボイスが刺さりました。「気づけばビール1本、気づけば豪遊、カイジ、やってしまった。カイジ、猛省」、「桃源郷をさまようがごとくの圧倒的至福! 開放! 地下も狂喜乱舞、咆哮歓喜感涙嗚咽感動感謝圧倒的感謝!」など、インパクトはかなり強烈でした。そしてこの『カイジ』から、今日のブレイクへ加速したように思います。
ではなぜ、男臭い声がブレイクしたのでしょうか? 個人の考察ですが、立木さんの声色は「怖い」印象が強く、制作側の起用に偏りがあったはずです。しかし唯一無二のしゃがれ声が徐々に浸透し「親しみ」に変わりました。
近年、特にバラエティ番組において過激な映像、描写に倫理という規制が厳しくなりました。なかなか過激な企画がご法度のなか、ロケVTRの芸人に怖そうな声色でツッこむナレーションはギャップになって笑いを誘います。大げさかもしれませんが、あの声がバラエティ界に新しい笑いをもたらせたと思います。次はどんな場面であの声が聞けるのか楽しみです。
※タイトルを一部修正しました(8月15日9時39分)
(石原久稔)



