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異色ロボットアニメ『聖戦士ダンバイン』「攻めた」メカデザインで一筋縄にいかなかった商品化秘話

当時のロボットアニメとしては馴染み薄かった「ファンタジー」を取り入れた、異色ロボットアニメ『聖戦士ダンバイン』。送り手側も手探りの「時代の一歩半先」の挑戦とは?

「時代の一歩半先」を行った『ダンバイン』の挑戦とは?

主人公のショウ・ザマらが描かれた『聖戦士ダンバイン』 Blu-ray BOX I(バンダイビジュアル)
主人公のショウ・ザマらが描かれた『聖戦士ダンバイン』 Blu-ray BOX I(バンダイビジュアル)

『聖戦士ダンバイン』の初放送から今年で40年。現在でも多くのアニメファンの話題にのぼることは、制作関係者にも大変ありがたいことです。

『ダンバイン』は、企画的にも制作現場的にも、そして商品的にも、なかなか一筋縄ではいかなかった作品です。理由は、当時、日本の人々はアニメでのファンタジー作品になじみが薄く、特に子供たち向けとされていた「ロボットアニメ」との融合に、送り手側も手探り状態だったからなのです。

 ちょうど、前作『戦闘メカ ザブングル』の制作をしていた1982年、アメリカで『ダーククリスタル』という主にパペット(人が手で操る人形)によるファンタジー映画が封切られ、映画好きなクリエイターたちの間で話題になりました。

 アニメをはじめとする創作関係者のなかには、以前からヨーロッパ風の異世界ファンタジーで描かれる造形デザイン等に興味を持っていた人々もおり、この映画の登場は、アニメ界にも新たな広がりを感じさせてくれました。

 TVには俗に「放送枠」といわれるものがあり、スポンサーは料金を払うことで、その枠内で自社の宣伝を放送する権利を得ます。

 サンライズ(当時は日本サンライズ)は、玩具メーカーを主なスポンサーとすることで、同じ放送枠番組を続けることができていました。そのため、オリジナル作品を作り続けていたサンライズと、つねに新しい作品イメージを求めていた富野由悠季監督は、このファンタジーをロボット玩具に取り入れ、次作品が作れないかと考えました。

 一方、当時すでにアニメプラモも人気を得ており『ザブングル』ではさまざまな商品が展開されていたため、次作でも魅力のあるプラモ展開ができたらという考えもありました。

 そんななかで、この物語に登場するロボット「オーラバトラー」は、異世界に生育する巨大な甲虫の外骨格(表皮)を利用して作られているという設定ができあがります。甲虫の表皮は拡大してみると細かな皮毛や気孔があります。もしその雰囲気を商品でも再現できれば、これまでのロボット商品とは毛色の違うものが作れそうです。

 そこで、俗に「梨地(なしじ)」、製造用語で「シボ加工」と呼ばれる細かな凸凹を表面に施したプラモデル製品を提案。メーカー側もこれを了解しました。

 また、それまでアニメロボットのプラモデルでは使われる場が少なかった透明のパーツにも力を入れようと、昆虫的な羽も再現することになりました。

 ところが、この「シボ加工」がクセモノで、プラモデルの製造工程の「金型から抜く」という作業に大変な手間がかかり、実際に発売された主力製品には、せっかくの表面加工がなされていませんでした。しかし透明パーツの方には加工がなされ、まるで「擦りガラス」のような羽になってしまいました。

 そのほかにも、いくつかの不具合があり、このプラモデルは発売後すぐに修正されましたが、「甲虫表皮」イメージのオーラバトラーのプラモデルを広げることは、当時はほとんど出来なかったのです。

 他方、玩具では、企画段階ですでに「フォウ」という高速飛行用の乗り物にダンバインが収容されるというプレイギミックを用意していました。しかし、実物モデルができたと同時に、メーカーの都合で商品化が不可能になるというアクシデントが起こってしまい、別個、構想していた主人公用変形オーラバトラー「ビルバイン」の登場が、消えた玩具の代わり(商品)となったような流れにもなりました。

 作品内でも、本来は異世界を舞台にした物語だったはずが、現実世界をも戦いの舞台にすることになります。何故なら「異世界ではオーラバトラーの存在感が伝わりにくく、リアルさを求めるプラモデルには不向き」いう指摘が監督の元に届いたからなのです。

 つまり、当時の商品開発や一般視聴者にとって『ダンバイン』の発想はうまく受け止めてもらえず、結果的に当初の予定通りの番組にはならなかったのです。

 とはいえ、富野監督の作風や時代へのチャレンジに好意を寄せて下さったファンに支えられ、後にはOVAやスピンオフ作品などのさまざまな形で『ダンバイン』はアニメ好きの人々の間で、一定の人気を保ってこられました。

 現在、ファンタジーを題材とした作品は当たり前に存在します。よく世間では「ヒットを産むには、流行の半歩先をゆけ」といいますが、『ダンバイン』は「時代の一歩半先」を行ってしまった作品だったと言えそうです。

【著者プロフィール】
風間洋(河原よしえ)
1975年よりアニメ制作会社サンライズ(現・バンダイナムコフィルムワークス)の『勇者ライディーン』(東北新社)制作スタジオに学生バイトで所属。卒業後、正規スタッフとして『無敵超人ザンボット3』等の設定助手、『最強ロボ ダイオージャ』『戦闘メカ ザブングル』『聖戦士ダンバイン』『巨神ゴーグ』等の文芸設定制作、『重戦機エルガイム』では「河原よしえ」名で脚本参加。『機甲戦記ドラグナー』『魔神英雄伝ワタル』『鎧伝 サムライトルーパー』等々の企画開発等に携わる。1989年より著述家として独立。同社作品のノベライズ、オリジナル小説、脚本、ムック関係やコラム等も手掛けている。

(風間洋(河原よしえ))

【画像】異色デザイン!『ダンバイン』主人公メカを見る(5枚)

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