『ガンダム』ハイパワーすぎて自壊した悲劇のMS「ヅダ」 名前の由来は意外にも?
『機動戦士ガンダム MS IGLOO』に登場するMS「ヅダ」。その意外な名前の由来と設定秘話とは。
土星エンジンの名前にも元ネタが?

数々ある「ガンダム」シリーズに登場するモビルスーツたち。
まだまだアニメロボットが「スーパーロボット」という文字通り夢の存在だった1979年当時、「兵士が服のように着る人型の兵器」という、一部SFファンの間でのみ認知されていた、リアリティーある発想を持ち込んだ先駆者が『機動戦士ガンダム』のモビルスーツです。
とはいえ、当時、玩具メーカーがメインスポンサーだった『ガンダム』自体も「モビルスーツ」とは呼ぶものの、それまでのスーパーロボットと同様に人よりもはるかに大きく、「操縦席」に座って操るものとして描かれています。
しかし、SFやメカニカルなものが好きだったファンの方たちには、絵面的にはそれほど変わって見えずとも、それぞれに実在感ある設定付けがあったモビルスーツは、この世界ではリアルな人型兵器なのだという認識が生まれ、物語を重ねる間に見事に定着していきました。
スペシャルな一体ではない、車や飛行機と同じように、その世界にはあって当たり前の存在であるモビルスーツ。
そんななかで「ガンダム通」ともいえる方たちに人気のあるモビルスーツのひとつが「ヅダ」です。
正式名称「EMS-10ヅダ」。
本機は、いまから20年前、2004年から2006年にかけて制作された、当時まだ珍しかったフル3DCG作品『機動戦士ガンダム MS IGLOO』シリーズの第3話「軌道上に幻影は疾る」に登場します。連邦軍と敵対するジオン公国製のスピードとハイパワーを誇る「土星エンジン」を搭載した、スタッフ曰く、猪突猛進モビルスーツです。
この『MS IGLOO』は、ジオン軍603技術試験隊の隊員たちを主人公に描かれた、ほかの「ガンダム」シリーズとはひと味違った作品で、登場するモビルスーツやモビルアーマー、兵器等も、実戦配備前のテスト機や運用に適するかどうかが未定のものばかりです。
ヅダも、そうした兵器のひとつですが、結果的に、あまりにもエンジンのパワーが高過ぎて、試験運用中に機体そのものが壊れてしまうという、なんとも皮肉な存在。
つまり、実用には至れなかったモビルスーツでした。
しかし、そんな悲劇性も魅力なのか、不思議なレトロ感も漂うデザインのヅダは、モビルスーツファン、ガンプラファンにも人気の機体だといいます。
この「超ハイパワーな土星エンジン」は、実は実在の戦闘機からインスピレーションを得ています。
第二次世界大戦で開発された日本軍の戦闘機に使われた三菱製のエンジン、例えば「零戦」、いわゆる「ゼロ戦」のエンジンは「金星エンジン」、「雷電」が「火星エンジン」と、それぞれに惑星の名前が使われていました。
これをインスパイアしたのがヅダの土星エンジンで、『ガンダム』本編に登場するモビルスーツ「ドム」が、このエンジンを採用しているという設定になっています。
ただし、三菱自動車「ギャランGTO」に使われたOHCエンジンの名前は「サターンエンジン」です。サターン=土星ですから濃いマニアの方にとっては、これもまた話題の案件だったりするようです。
ちなみに「ヅダ」という名前は、監督でありシナリオも手がけている今西隆志さん(脚本名・大熊朝秀)が、シナリオの時点でもう決めていたもので、なんと「づだぶくろ」からなんだそうです。
中身(エンジン)に対して、それを包んでいる入れ物、つまりスーツ部分が強度不足……ボロい袋・づだぶくろ、ということなのかもしれません。
さすがはあのハードな画面と物語で熱烈なファンが多い『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』の監督。発想がなんともイキですよね。
私個人は、物語の最後、ヅダがそのパワーゆえ自壊して行く直前、飛行していた夜の地球成層圏の向こうから、美しい太陽が昇ってくるシーンがとても印象的で大好きです。
まさにヅダは「滅びの美学」。
「ガンダム」シリーズにおけるジオン公国を体現するようなモビルスーツ、それがヅダの役割だったように思えてなりません。
(風間洋(河原よしえ))
【著者プロフィール】
風間洋(河原よしえ)
1975年よりアニメ制作会社サンライズ(現・バンダイナムコフィルムワークス)の『勇者ライディーン』(東北新社)制作スタジオに学生バイトで所属。卒業後、正規スタッフとして『無敵超人ザンボット3』等の設定助手、『最強ロボ ダイオージャ』『戦闘メカ ザブングル』『聖戦士ダンバイン』『巨神ゴーグ』等の文芸設定制作、『重戦機エルガイム』では「河原よしえ」名で脚本参加。『機甲戦記ドラグナー』『魔神英雄伝ワタル』『鎧伝 サムライトルーパー』等々の企画開発等に携わる。1989年より著述家として独立。同社作品のノベライズ、オリジナル小説、脚本、ムック関係やコラム等も手掛けている。
2017年から、認定NPO法人・アニメ、特撮アーカイブ機構『ATAC』研究員として、アニメーションのアーカイブ活動にも参加中。