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『シン・エヴァ』制作現場の管理術がスゴイ 「風通しのよい組織づくり」ってこういうこと?

新年度のスタートに、プロジェクトマネジメントのヒントを映画制作の現場から学べる一冊があります。『プロジェクト・シン・エヴァンゲリオン』は、あの大ヒット映画の制作実態をビジネス的視点でまとめた報告書です。

分かりやすく言うと令和の『もしドラ』である?

『プロジェクト・シン・エヴァンゲリオン 実績・省察・評価・総括』書影(グランドワークス)
『プロジェクト・シン・エヴァンゲリオン 実績・省察・評価・総括』書影(グランドワークス)

『プロジェクト・シン・エヴァンゲリオン』というビジネス書をご存知でしょうか?

 本書は、映画『シン・エヴァンゲリオン劇場版』を制作にするにあたっての目標、工程、体制、費用、期間、プリヴィズ導入実績などの制作実態をビジネス的側面からまとめた、プロジェクトマネジメント報告書です。

 新年度になって、新しいプロジェクトを任された人や、上司になって初めて部下を持つ人も大勢いるでしょう。そんな人が本書を見かけとしたら、『シン・エヴァ』の制作現場はどんな様子だったのかと、興味を持つ人も多いのではないでしょうか。

「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」シリーズは、碇シンジをはじめとする14歳の少年少女たちが、汎用人型決戦兵器人造人間「エヴァンゲリオン」に乗り込み、謎の巨大生物「使徒」との戦いを繰り広げる物語です。2007年から2021年にかけて全4作が劇場公開されました。

 そのシリーズの完結編である『シン・エヴァンゲリオン劇場版』(2021年)の制作現場を総括したものが、本書の内容です。

『プロジェクト・シン・エヴァンゲリオン』はれっきとした「ビジネス書」であり、「ファンブック」ではありません。画コンテなどは載っているものの、すべてモノクロ印刷。そして、351ページに及ぶ大著です。

 また、各章の見出しが「硬い」表現になっています。

プロジェクト概要
プロジェクト実績
プロジェクト省察
内部評価
ライセンスと宣伝
外部評価
プロジェクト総括 庵野秀明
終章

 つまるところ、大変「地味」な内容なのです。

 しかし、『プロジェクト・シン・エヴァンゲリオン』は、令和の『もしドラ』だ言うべき本になっています。

『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』とは、公立高校の弱小野球部でマネージャーを務める女子高生・川島みなみが、ピーター・F・ドラッカーの『マネジメント』を偶然書店で手に取ったことを契機に、部の意識改革を進めるという小説で、2009年12月にダイヤモンド社から発売された当時、大きな話題となりました。

 そのような観点で、スタジオカラーの取り組みを見てみましょう。

想像以上に「ホワイト企業」な現場?

 NHKスペシャル『プロフェッショナル 庵野秀明ドキュメント さようなら全てのエヴァンゲリオン』の映像を観ると、スタジオカラーの現場は一見「ブラック企業」ではないかという印象を持たれるかもしれません。

 長時間労働、ギリギリな製作スケジュール、そして庵野監督の膨大かつ細かい指示……。

 しかし、本書を読むと、むしろ「ホワイト企業」という印象を強く受けることになります。

 まず、スタジオカラーでは、「1on1」(管理職と現場スタッフとの個人的な面談)を定期的に実施しています。また、いわゆる「社長室」のような部屋はなく、庵野監督には誰でも話しかけられる状態になっているとのこと。つまり、大変風通しが良い社風なのだそうです。

 そして、外部スタッフも要職につけており、川上量生氏や尾上克郎氏などが例として挙げられます。

 社内打ち合わせ内容は録音、録画され、全社員に共有。庵野監督は、画コンテやラッシュ映像などについて全社員に感想を聞いており、アンケートの配布は事務スタッフも対象にしています。

 しかも、社内で何かトラブル(作業の遅延など)があったとしても、決してペナルティは課されず、「心理的安全性」を担保した状態で社員が仕事を遂行できるようになっています。

 以上の内容は、経営の神様であるドラッガーが説いているものと一致しており、まさしく現代版の『もしドラ』だと言えるのです。

実は「ほっこりエピソード」も満載

 さらに、本書の面白い記述を紹介しましょう。

 まずは、スタッフへの「差し入れ」エピソードです。プロジェクト中盤以降、管理部によって各種野菜ジュースと果物ジュース、乳酸菌飲料が各階冷蔵庫に常備されたのこと。

 そのほか、庵野監督からは、定期的に即席カップ麺や、庵野の出身地である山口県に所在する「中華そば一久」のラーメンと餃子などが途切れることなく差し入れられました。プロジェクト最終盤には、スタジオカラー取締役の安野モヨコ氏から栄養・味ともに考慮された食事が日替わりで届けらというからすごいです。

 最後は、スタジオジブリのプロデューサー・鈴木敏夫氏の証言です。一部引用します。

「庵野は結婚披露宴の司会がものすごく上手いんです。ある人の披露宴で僕は宮さんと隣同士で出席していました。そしたら庵野が司会をやっていて、平気で「ではここで、愛の接吻を」とか言うんです。そしたら宮さんが「やめろ!そんなことしたら、俺はこの結婚を認めない!」とか次で大騒ぎするんだけど庵野は受け流しながらすっとぼけて「では抱き合って、接吻を」とか言ってね。庵野が言うちょっとした一言がものすごく効果的なんです。」

 鈴木氏は、庵野監督は人を喜ばせることが好きだと強調します。褒められて喜ぶ人間ではなく、人のために何かをして、自分の喜びとするタイプだというのです。

 そんなほっこりとするエピソードも散りばめられている『プロジェクト・シン・エヴァンゲリオン』を、ぜひとも手に取って読んでいただきたいです。

(「細かすぎる」エンタメ研究所所長TSUYU(ASDさん))

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