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「このマンガがすごい!」2位の『葬送のフリーレン』 生と死の儚さと優しさに涙…

2020年12月14日に発行された『このマンガがすごい!2021』(宝島社)オトコ編の2位に『葬送のフリーレン』(アベツカサ先生)が選ばれました。長命なエルフ、フリーレンの「魔王を倒した後の物語」。ファンタジー愛好者の心をわしづかみにする物語への注目度はますます高まっています。

人間とドワーフ、そしてエルフの勇者パーティの「魔王を倒した後の物語」

『葬送のフリーレン』メインビジュアル(小学館)
『葬送のフリーレン』メインビジュアル(小学館)

 さまざまな分野のマンガ好きによる投票をもとに発表される『このマンガがすごい!2021』(宝島社)が発売されました。今回、オトコ編の2位に選ばれた『葬送のフリーレン』(アベツカサ先生)は、長命なエルフ、フリーレンの「魔王を倒した後の物語」。筆者はこの作品に一瞬で釘付けになりました。

 原作を知ったきっかけは、アベツカサ先生がマンガを投稿されたツイートでした。人間である勇者ヒンメル、僧侶ハイター、ドワーフの戦士アイゼンと、エルフの魔法使いフリーレン。彼らは魔王を打ち倒し、平和な世界をもたらした英雄たち。物語はそのパーティが「解散」し、年月を経てフリーレンが仲間のもとを訪れる形で進んでいきます。

 10年、50年という歳月が「あっという間」に感じられるフリーレンが、再びヒンメルを訊ねた頃、彼はおじいさんになっていました。まもなく死を迎えた彼の葬儀で、ヒンメルのことを知ろうとしなかった後悔がつのり、無表情だったフリーレンは涙を流します。

 一見姿の変わらないアイゼンも、フリーレンの知らないところで歳を重ねています。ハイターもまた、彼が命を救った少女の後見をフリーレンに託し、同じく息を引き取ります。

 合計18ツイートに及ぶ一連のストーリー(物語の第1話)を、何十回見直したか分かりません。気づけば単行本を手に取り、現在発売されている2巻までを何度も何度も読み返していました。

『葬送のフリーレン』第1巻(小学館)
『葬送のフリーレン』第1巻(小学館)

 それだけこの作品が筆者の胸を打ったのには、いくつか理由があります。ひとつは、異種族が集う剣と魔法の世界で、個人的に大好きなテーマである「魔王がいなくなった世界」の物語が、情緒豊かに描かれていることです。

 魔王という諸悪の根源を滅ぼすために集った、異種族によるパーティ。しかし彼らは、同じ年月をともに歩み続けられる存在ではありません。魔王を倒したあと、パーティのメンバーはどうなるのだろう? すぐに寿命が尽きる人間、長く生き続けるエルフはお互いに、何を思って生きるのだろう?

 本作ではそんな好奇心を、エルフ・フリーレンからの視点を中心に満たしてくれます。ヒンメルらとの10年の旅でさえ、彼女の人生の100分の1以下の時間に過ぎません。フリーレンと登場人物の間に存在する、圧倒的な時間感覚のずれ。これが作中全体に、ちょっとした儚さを生みつつ、ときに「奇行」思えるフリーレンの行動にコミカルさを生み出します。このふたつの要素が絶妙なバランスで同居して、単に「おもしろい!」の一言では片付けられない深みを味わえるのです。

 本作に惹かれるもうひとつの理由が、「生と死」という、『葬送のフリーレン』のあらゆるストーリーに深く関わるテーマの扱い方です。

 特に、ヒンメルたちとフリーレンに関わるエピソードでは、「死」がとてもあたたかく、愛情豊かに描かれています。僕たちが死んだ後も、君が孤独にならないように。そんな思いが込められたさまざまな仕掛けに、フリーレンは出会い、そして彼らを思い出し笑顔になる。作品全体に寂しさ・悲しさが漂うのに、読んでいて気持ちが暗くならないのは、彼らの思いが死後も残り続けているからかもしれません。ふいに登場するこうしたエピソードに、何度か本気泣きを喫しました(笑)。

 仲間が増え、新たな旅の目的を見つけたフリーレン(その目的もまた泣かせてくるんですよね……)。そして、本記事を書いている最中に、単行本の最新3巻が発売されました。フリーレンの本格的な戦闘シーン、楽しみに読ませていただきます……!

(サトートモロー)

●『葬送のフリーレン』PV(週刊少年サンデー公式)

【画像】いつまでも美しいままの姿…「フリーレン」とかつての仲間たち(8枚)

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