誰もが乗りたくなかったMS「ボール」 意外なほど活躍したガンダム作品は?
『機動戦士ガンダム』に登場したRB-79ボールは、宇宙用作業用ポッドをベースに開発された簡易量産型モビルスーツとして戦場に大量投入されました。作中ではザクに蹴られ、ビグザムに溶かされるなど散々な扱いを受けましたが、1200機以上が参戦し連邦軍の勝利に貢献したとされています。
本当にボールは「動く棺桶」だったのか

丸くって、真ん中に目があって2本の腕が生えていて、頭の上に申し訳程度に180ミリキャノン(120ミリ、90ミリ説もあり)が一門だけ搭載されている、子供心にもひと目で「やられ役」だと分かるデザイン。実際に「ガンダム」作中でも、ザクに蹴られて破壊され、味方のジムを巻き込んで爆散する始末。ソロモンに突入したパイロットがビグザムに遭遇し、「新型は1機だけのようだ。あとはザクとリック・ドムばかりだ、やるぞ!」と攻撃を仕掛けたときは、「なんでボールのくせにそんな強気なの?」と戸惑ったことを思い出します。TVでガンダムを見ていた子供にとって、連邦軍の量産型MS「ボール」はそんな存在でした。
もし筆者が子供のころに、『機動戦士ガンダム』に登場する機体のなかで何に乗りたいかと聞かれたら、間違いなく「RX-78ガンダム」だと答えたでしょう。大人になった今は安全な距離から撃てる「ガンタンク」を希望しますが、少なくとも今も昔もボールに乗りたいと考えたことは一度もありません。実際に乗り込んだ連邦軍兵士からも評判が悪く「棺桶」扱いされており、戦闘で大きな被害を出したことも明らかになっています。
そんなボールがなぜ戦場に送り出されたのか。そもそもなぜ生産されることになったのか。大きな理由としては、ジオン軍に対する反攻作戦において、多くの軍需品生産により工場の生産ラインがひっ迫していたことが挙げられます。そのため、民生品である作業用ポッドのラインを流用できる点がボールの量産を可能としたのです。また、コストもジムの1/4と安価だったことも見逃せない点でした。
現実の軍隊でも、しばしば高価な兵器と安価な兵器を組み合わせて、質と量の双方を担保する「ハイローミックス(High-low mix)」編成が行われています。地球連邦軍も同様の構想で編成されており、高価なジムと安価なボールを組み合わせていたのです。
諸説ありますが、『機動戦士ガンダム』36話ではジム1機とボール2機の組み合わせがしばしば登場しており、この3機が最小の戦闘ユニットとして運用されていたことが分かります。
また、ジムが前衛を務めて敵の接近を防ぎ、後方からボールが弾幕を張る戦術も有効だったとされており、学徒動員により質が低下していたジオン軍に大きな打撃を与えています。ボールは決して無力な存在ではありませんでした。