原作と違うから賛否両論? でも傑作な『鋼の錬金術師 シャンバラを征く者』BSで放映
原作の本質をとらえた改変と強烈なメッセージ

このように現実とフィクションをリンクさせることによって、観客に何を伝えようとしたのでしょうか。
水島精二監督は、本作で「誰も世界とは無関係でいられない」というメッセージを伝えたかったと語っています。本来の『ハガレン』は架空の世界を舞台にしていますが、そこからキャラクターが現実の世界に来てしまうという物語展開そのもので、このメッセージを伝えているのです。
しかし、原作の人気が高ければ高いほど、内容を変更した時には大きな議論が起こるもの。本作は、原作とは異なるオリジナルストーリーですが、やはり原作ファンの間で激しい賛否両論が起こりました。
それでも、一本の映画作品として完成度は高く、その証として、日本のメディア芸術100選(2000年代)アニメーション部門第5位に入るなど、多くの賞を受賞しています。
現実の世界とつなげてしまうという大胆な改変、さらにTVシリーズのオリジナル展開も含めて各キャラクターの関係性や役割が大きく変化していますが、同作は『ハガレン』という作品の本質をきっちり抑えています。
その本質とは、「錬金術は等価交換」だということ。何かを得るためには別の何かを犠牲にしなくてはならないというシビアな世界の理(ことわり)を描いたのが『ハガレン』の魅力で、それは現実世界を生きる私たちも実感することでしょう。
そして、原作にも過酷な戦争描写や貧困、民族差別など、作者が現実世界を参照したと思われる要素を含んでいました。そういう世界観だからこそ、現実とも違和感なくリンクできたのでしょうし、水島監督の伝えたかった「誰もが世界と無関係でいられない」というメッセージも、あらかじめ原作に宿っていたと言えるでしょう。
エドが架空の世界から現実世界に飛び出してしまったかのように、この作品を観る人もアニメを突き抜けて、もっと広い世界の厳しさを突き付けられるような、そんなすごいものを観たという感覚にさせてくれる作品なのです。
(杉本穂高)