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「原作リスペクトがない」批判への違和感 映画『スラムダンク』が「マンガ原作アニメ」の常識を変えてしまう可能性とは

「原作に忠実」議論で見落とされがちな「絵柄」問題

2022年12月3日公開、映画『THE FIRST SLAM DUNK』ビジュアル (C)I.T.PLANNING,INC. (C)2022 THE FIRST SLAM DUNK Film Partners
2022年12月3日公開、映画『THE FIRST SLAM DUNK』ビジュアル (C)I.T.PLANNING,INC. (C)2022 THE FIRST SLAM DUNK Film Partners

 本作のもうひとつの驚きは、井上雄彦先生の原作の絵がそのまま動いていると感じられる点です。

 マンガ原作のアニメでは、通常キャラクターデザインはアニメーターが動かしやすい形に整えられます。もちろん、キャラクターの特徴は掴んだ上でアニメのデザインに落とし込みますが、どうしても原作の絵そのままというわけにはいきません。マンガの絵とアニメの絵は別なのです。

 しかし本作は、監督のみならずキャラクターデザインと作画監督を井上雄彦先生自ら行っていることもあってか、原作の絵をそのまま移植することを試みています。本作のストーリーは映画オリジナルな部分も多く、試合展開に関しては省略されてもいますが、絵柄については、数多くあるマンガ原作のアニメのなかでも屈指の「忠実度」だと言っていいでしょう。

 原作ものの場合、「原作へのリスペクト」や「オリジナルに忠実であるかどうか」が常に議論になります。しかし、その議論は大抵の場合、物語が忠実に再現されているかに集中します。絵柄についてはアニメ的なデフォルメや簡易にする変更があっても、大きな議論となるケースは多くありません。

 マンガは絵で物語を語る媒体ですので、絵柄はどのマンガ作品にとっても大切な要素であるはずです。『SLUM DUNK』は、リアルなバスケットボールの展開をリアルな等身のキャラクターで見せる作品なので、絵柄自体が作品の本質に直結するタイプの作品と言えます。したがって、物語を忠実になぞっても絵が変われば、原作の魅力を引き出し切ることはできないと言えます。

 井上雄彦先生は、リアルにこだわる作家です。それは、本物のバスケットの試合がマンガ以上にエキサイティングなものだと良く知っているからだと思います。『SLUM DUNK』15巻で井上先生は、「たまに『こんな接戦ばかり続くわけない』とか、『やっぱり漫画だから』といったお手紙をもらうことがあるけど、とんでもない! 現実の試合は時にもっとドラマチックだ。悔しいけどそうなんだ。」と書いています。

 本作のパンフレットで、演出を担当した大橋聡雄さんは「本物のプレーヤーに協力いただき再現したリアルな山王戦を、CGのカメラで撮影していくと、驚くほど映像と原作に矛盾がないんです。それぐらい本物志向だったんだと、原作のすごさを実感しました」と語っています。井上先生がどれだけリアル志向なマンガを描いていたのかがよくわかるエピソードです。

 そんな現実のバスケットへのリスペクトがあるからこそ、本作ではマンガでは困難だったリアルな試合の時間間隔に忠実なのだと思います。本作は、マンガに見られたようなギャグ表現、心の声やナレーションなどは極力削り、プレイの流れをなるべく止めないように心がけています。原作マンガが目指した本物の試合の再現に重きを置いた演出をしているのです。

 あの絵柄を再現し、リアルに徹した動きを生み出すには、スタッフ全員が原作マンガをリスペクトしなくては絶対にできなかったでしょう。3DCGアニメとして、そしてスポーツアニメとして、日本アニメの歴史を1ページ更新する、衝撃の1本です。

(杉本穂高)

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