『ドラクエ』「勇者ってズルい!」 竜王の気持ちになって考えてみた
竜王から見れば、勇者はルール違反? 約束くらい守って!

●死すらも乗り越える、恐るべき勇者の特性
1対1という、数の暴力で押せない戦いが続きますが、手ごわい魔物に敗北した勇者が道半ばに倒れることもあります。竜王の立場なら、勇者を倒した魔物に特別な褒賞を与えても惜しくないほどの働きぶりです。
しかし、勇者打倒の朗報に喜ぶのもつかの間。勇者はまた、何事もなく冒険の旅を再開しています。『ドラクエ』の勇者は、死んでも「所持金が半分になる」というデメリットを受けるだけで、あとはほぼ問題なく復活。武器や所持品、経験値もそのままで、
RPGのなかには、ゲームオーバー画面が出て、タイトル画面からやり直し──という作品もあります。しかし『ドラクエ』は、「しんでしまうとは なにごとだ!」とのお叱りの言葉からも窺えるように、死んだ後に蘇っている模様。所持金半額、城から出直しというペナルティこそありますが、蘇生の代償と考えればむしろ安いくらいです。
倒しても倒しても、そのたびに復活し、戦いに挑む勇者。強さよりも勇気よりも、その「蘇り」こそが恐るべき武器に違いありません。
●勇者に問いたい倫理観、その剣持っていくの!?
勇者に対するイメージは人それぞれですが、「弱気を助け、強気をくじく」「人々のために戦う」「世界を守る」あたりは、比較的多くの方が共通して抱いてるものでしょう。しかし竜王からすれば、「だったら、もっとちゃんとして!」と苦情のひとつもこぼしたいところ。
竜王の城には、強大な魔物だけでなく、勇者を助けるアイテムも眠っています。特に見逃せないのが、作中で最強を誇る「ロトのつるぎ」。この武器を持っているか否かで、竜王の倒しやすさが格段に変わります。
置かれている場所から考えて、現在の「ロトのつるぎ」の所有者は竜王と言っていいはず。なのに勇者は、敵の城にある宝箱から躊躇なくそれを取り出し、我が物とします。来歴を考えると勇者が持つ正統性はあるものの、敵の所有物を問答無用で奪うという行為は、少々引っかかるところです。
●勇者なんだから、約束は守って!
とはいえ、過酷な竜王との戦いに最強の武器で挑みたい気持ちも分かります。なので略奪の件は一歩譲るにしても、「勇者に相応しい行動であれ」と苦言を呈したくなるポイントはもうひとつあり、それは竜王との取り引きです。
いざ最終決戦、と意気込む勇者に向けて「わしのみかたになれば せかいのはんぶんをやろう」と竜王が持ちかけます。この話に乗ると、竜王は「世界の半分」、つまり闇の世界を勇者に与え、画面は暗転。死亡時の復活とも異なり、ゲーム自体が進行できなくなるという、竜王の巧みな罠が発動します。
しかし、闇の世界とはいえ「世界の半分」をくれたのは事実。契約は確かに成立したのに、勇者(を操作するプレイヤー)は「ふっかつのじゅもん」で世界を巻き戻し、再び竜王の前に現れます。もちろん今度は、竜王の提案に乗らず戦いに臨み、晴れて勇者はその役目を果たした。
人間側から見れば、竜王はまさに「悪」の象徴。しかし、悪との契約なら一方的に破っていい、というのも強引な話です。もし自分が竜王の立場だったら、「味方になるって言ったよね。約束くらい守って!」と愚痴ったことでしょう。
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こうした事情のほとんどは、多くのプレイヤーが楽しめるようにといった配慮から生まれたもの。現実的に考えること自体がナンセンスと言えます。ですが、あくまで発想のひとつとして、普段とは異なる「敵の視点」で考えてみるのもオツなもの。
今回は初代『ドラクエ』をモチーフとしましたが、他のゲーム作品でも刺激的な気づきが得られるかもしれません。
(臥待)