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「AIの暴走」だけじゃすまない、ホラーかつトラウマなSFアニメ映画3選

AIまたはロボットを扱ったアニメ映画のなかには、はっきり「怖い」シーンもあります。ホラーまたはトラウマとも語られるものの、決して露悪的なだけではない、確かな意図がある3作品を紹介しましょう。

「ダークなピノキオ」や「主人公の母親が怖い」パターンも

映画『メイクアガール』ポスタービジュアル  (C)2023 安田現象/Xenotoon
映画『メイクアガール』ポスタービジュアル  (C)2023 安田現象/Xenotoon

 公開中のロボットが主人公のアニメ映画『野生の島のロズ』が大好評で迎えられているいま、日本のロボットまたはAIを描くアニメ映画も観てみてはいかがでしょうか。数ある作品のなかには大人向けな内容で、「ホラー」「トラウマ」と語られる怖いシーンが描かれた映画もありました。いずれも「人間に作られた存在」への愛情と、むやみやたらに全肯定もしない作り手の意志を感じさせます。

●『メイクアガール』

 2025年1月31日より劇場公開中の『メイクアガール』は、SNSの総フォロワー数が600万を超えるアニメ作家の安田現象さんが監督、脚本、原案を務めた、「超新感覚サイバーラブサスペンス」と銘打たれた作品です。ヒロインの「0号」は正確にはロボットやAIではなく「人造人間」ですが、「恋愛感情のようなものをプログラムされている」「自分の心がホンモノなのかニセモノなのかを考え葛藤していく」という、ロボットもののSFらしい要素が中心にあります。

 評価は正直賛否両論で、良くも悪くもすんなりとは飲み込みづらい、荒削りともいえる内容です。たとえば、「主人公の少年科学者の新たな発明は失敗続きなのに、人造人間のほうはあっさりと誕生させる」という発端から(後からその理由が断片的に分かる場面もあるとはいえ)、物語に入り込めなくなってしまった人もいるでしょう。

 そして、詳細は伏せておきますが、終盤ではナイフでの殺傷、かつ流血(血ではなく黒い液体)の描写があり、そのシチュエーションも不条理かつ恐ろしいものでした。しかし、このために劇中で「第二人類」と呼ばれるロボットと、「第三人類」とされる0号という、別の存在をそれぞれ描いていたのだと納得もできましたし、0号の設定と境遇には『新世紀エヴァンゲリオン』の「綾波レイ」を連想するところもありました。

 ハッピーエンドかバッドエンドかも人によって解釈が分かれており、難解だからこそ深読みができる、クセになる魅力があるという声も多く、リピーターも続出しています。新進気鋭の少人数のスタジオで、ここまでのクオリティーの3DCG長編アニメを完成させたことも驚きです。観る人を選ぶ問題作であることを覚悟の上で、ぜひ劇場に足を運んでみてほしい作品です。

●『パルムの樹』

 2002年に劇場公開された『パルムの樹』は、一見すると児童向けのファンタジーですが、実際にはキャラクターが物理的にも精神的にもひどく痛めつけられる場面が多い、「ダークなピノキオ」ともいえる大人向けの内容です。負の感情を暴走させる悲しさや、グロテスクな描写から『AKIRA』を連想する人もいれば、子供たちの残酷な旅路からいまでは『メイド・イン・アビス』を思い浮かべる人もいるでしょう。

 序盤からその「ハートフルボッコ」な描写はフルスロットルで、たとえば主人公の人形「パルム」は、初登場シーンで樹のツタにからみつき虚(うつろ)な表情をしている状態でした。さらにその後、高いところから落ちて首や腕や脚が曲がりちぎれ体液を垂れ流し、さらにはクモのような不気味な4足歩行をする、という衝撃的場面も描かれます。

 さらに、中盤からパルムは「ポポ」という少女をかつて自身が母のように慕っていた女性だと勘違いして、執拗(しつよう)に詰めよりました。その誤解はすぐに解けるものの、その後もパルムは「人間になる」という自身の目的を盾に、ポポに「もっと僕のことを考えてよ!」と悪びれずに言ったり、とある大きな罪を犯しながらも「知らない!」としらばっくれたりします。パルムははっきり自己中心的かつ情緒不安定、しかもストーカー気質と、意図的にせよ強い嫌悪感を抱かせる主人公なのです。

 しかし、母親から虐待を受けていたポポがなぜひどいことばかりをするパルムを完全には拒絶しなかったのか、という点は本作のカギとなっています。そのほか、少年窃盗団のリーダー格の少年「シャタ」が母親の女戦士「コーラム」に抱いていた複雑な感情、そのコーラムがどれだけ努力をしても父親に愛されなかった過去など、残酷な世界で深く傷付いた人たちに寄り添う優しさを感じさせる要素もたくさんありました。

 また、つらく苦しい場面が多かったからこその、救いや美しさもあるクライマックスとラストシーンには涙を禁じ得ません。『パルムの樹』は、いまに至るまで注目度は高くはありませんが、再評価されることを願っています。

●『アイの歌声を聴かせて』

 2021年に劇場公開され口コミで高い人気を得た『アイの歌声を聴かせて』は、直接的な残酷描写はほぼなく、学園内でのドタバタを描く楽しく明るいコメディ要素もあり、小さなお子さんでも楽しめる内容です。女子高生AIの「シオン(芦森詩音)」が転校初日の自己紹介で、主人公の「サトミ(天野悟美)」にいきなり「いま、幸せ?」と聞いてきて、しかも歌って踊る「ミュージカル」まで披露する物語の発端は突飛ですが、その観客も抱く「戸惑い」も、みごとにその後の物語に昇華する「仕掛け」として機能していました。

 ただ、残酷描写がないとはいえ、ホラーシーンの怖さはなかなかのものです。とある場面でシオンが「幸せになるためだったら、なんでもするよね?」と聞いてくる様は「AIが暴走するかもしれない」危険性と恐怖を真正面から描いているともいえますし、悪役に当たる人物がそのことを指摘するのは「正論」そのものでした。ラストで提示された「これから」にも、怖さを感じる方は確実にいるでしょう。

 本作の共同脚本を手がけたのは、『コードギアス 反逆のルルーシュ』シリーズや『機動戦士ガンダム 水星の魔女』でも、視聴者をいい意味で絶望させた手腕に定評がある大河内一楼さんで、本作でも「もうどうすることもできない」事実をこれ以上なく見せてくれます。でも、だからこそ、その後に明かされる秘密、愛らしく魅力的なキャラクターの奮闘、そして「幸せ」の定義および肯定には、目から涙が滝のようにあふれてくる感動があったのです。

 ちなみに、本作の怖さはAIだけでなくサトミの母「美津子」にもあります。美津子はサトミへの愛情を確かに感じる一方で危ういところもあり、とある事態になった際に彼女がいる「場所」にもゾッとします。それも人間にある、愛情と表裏の憎しみ、矛盾する感情をもはっきりと描く、吉浦康裕監督の誠実さの表れともいえます。

 なお、『アイの歌声を聴かせて』はNHK Eテレで、2025年3月14日24時(3月15日0時)より地上波放送予定です。

(ヒナタカ)

【画像】え…っ? 「目ェ怖ッ」 コチラが公開中『メイクアガール』のギャップありすぎなトラウマシーンです

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