えっ下着売り場でサイン会? 『あんぱん』嵩が八木と手掛ける処女詩集に注目 やなせたかしはコレで「女性人気爆増」していた
『あんぱん』では八木の提案で、嵩の初詩集が作られる予定です。こちらは1966年の『愛する歌』がモデルとなっています。
ファンレターも多数届いたが

『アンパンマン』の作者、やなせたかしさんと妻の暢さんをモデルにした2025年前期のNHK連続テレビ小説『あんぱん』第22週107話では、「柳井嵩(演:北村匠海)」の恩人で「九州コットンセンター」の社長「八木信之介(演:妻夫木聡)」が、嵩に詩集を出すように提案することが予告されています。この詩集『愛する歌』は、やなせさんが意外な人気を得た作品となりました。
106話では「嵩の詩を描いた湯飲みや皿」の商品のアイデアも出した八木のモデルと言われているのは、山梨シルクセンター(のちのサンリオ)の社長、辻信太郎さんです。辻さんは、やなせさんが1966年半ばに行っていた、自作陶器の個展で出会っています。辻さんはその後、やなせさんがラジオドラマの仕事で書き溜めた歌の詩集を出そうと考えているという話を聞き、山梨シルクセンターから詩集を出すことを提案しました。
山梨シルクセンターは出版に関わったことはなく、やなせさんは自伝『人生なんて夢だけど』(フレーベル館)で、辻さんの提案に関して「何を冗談言ってるのかと思いました」「無名に近い漫画家もどきの詩集。一部だって売れないと思うのが世間の常識です」と思ったことを振り返っています。
ただ、辻さんはこの詩集を出すために、伊藤さんという若手の社員ひとりを置いた出版部を作り、出版物の取次会社の東販(現:トーハン)の社員にノウハウを教わりながら、やなせさんの処女詩集の出版にこぎつけました。
そして、サンリオの記念すべき最初の出版物にもなった『愛する歌』(1966年)は、予算もなく灰色の地味な表紙の書籍でしたが、意外なほどにヒットを飛ばします。まず、出版記念で銀座でサイン会をすると、意外にも多くの人が買いに来て、やなせさんは驚いたそうです。
詩集は5万部を超え第5集まで出されるベストセラーとなり、やなせさんは各地でサイン会を行いました。あるときには、山梨シルクセンターが取引をしていた婦人服販売の株式会社三愛の下着売り場の中央で、女性だらけのサイン会もしたそうです。なかには、下着に直にサインをしてほしいという人もいました。
『愛する歌』には全体的に女性ファンが多かったそうで、やなせさんのもとへは「中学生、高校生、大学生の順」で、若い女性からたくさんのファンレターが届くようになったといいます。
やなせさんは別の自伝『アンパンマンの遺書』(岩波書店)では、「女性にはモテたことがないので、花模様の封筒に入った絵入りの手紙がとどくのはうれしかった」と語っていますが、なかには「やなせさんの詩を読むと、この程度なら私でも作れると思ってうれしくなりました」といった、ほめているのかけなしているのか迷うような手紙もあったそうです。
さらに、当時40代半ばで妻のいるやなせさんを、詩の内容から20代の青年だと勘違いしていたらしいファンが、サイン会で泣き出したこともありました。やなせさんは、「ぼくの人生の中で、青春時代十年が(戦争のせいで)欠落している。ぼくは詩の中で勝手に青春を楽しんでいたのだが、それが誤解を招く結果となった」(『アンパンマンの遺書』より)と振り返っています。
『あんぱん』でも八木が豪腕で出版にまでこぎつける場面や、嵩が「モテて」しまうシーンが出てくるのか、気になるところです。
(マグミクス編集部)

