「おぼえていますか?」『マクロス』劇場版公開から40年 スタッフの本気が生んだ稀代の名作
スタッフの本気が生んだ当時としては異例の劇場版

スタッフの本気、それは劇場版が単にTV版を再編集したものではなく、新たに一から制作した「映画作品」だったことです。
前述したように、当時のTVアニメ作品が映画になる場合、TV版のダイジェストになることがほとんどでした。それゆえ劇場版『愛・おぼえていますか』もそうなるであろうと、ファンの大多数は思っていたわけです。それが全編、新作映像になるとは驚き以外のなにものでもありませんでした。
さらに付け加えれば、映画でキャラクターデザインが一新されたことも異例のことでした。メカに関しては大きくは変わらなかったものの、新たな装備となった主役機「VF-1 ストライクバルキリー」が話題となります。
変化はこれだけではありません。アイドル歌手「リン・ミンメイ」の歌により、文化を知らなかった異星人との星間戦争に決着がつく……という大筋はそのままに、男しかいない「ゼントラーディ」と、女しかいない「メルトランディ」との戦いという形に物語を改変してきたのです。
TV版とは違った作品として生まれ変わった劇場版は、大喜びでファンに受け入れられました。その結果、この1984年に公開されたアニメ映画『風の谷のナウシカ』『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』と並んで、「劇場用アニメの当たり年」とまで評されます。その人気は映画だけにとどまらず、セルビデオは1984年の年間第1位を記録しました。
こうしてTV版に頼らない新しいタイプの劇場版は、結果的に大成功を収めます。しかし、その結果として『超時空要塞マクロス』という作品は、TV版と劇場版というふたつの異なるストーリーが紡がれました。ほかの作品ならば、どちらが正史になるのか、という論争が起こっても不思議ではありません。ところが、これに関して後に明確な回答がありました。
『マクロス』の続編となる『マクロス7』などで、回答となる設定が明かされています。それによると、TV版と劇場版は共に、史実を元にした「フィクション」であり、それぞれの表現や描写が異なるだけ……というものでした。つまり、本来あった歴史を題材に作られた、別の作品であるというものです。
ちなみに、TV版の『超時空要塞マクロス』は「作品内世界で放送されたTVドラマ」、映画の『愛・おぼえていますか』は「作品内世界で上映された劇場映画」という「作品内設定」でした。こうすることで、ファンの間で起こるであろう正史論争を封じたわけです。つまり、最初の時代の『マクロス』を今後リファインすることも可能な設定だといえるでしょう。
最後になりましたが、忘れてはいけないのが、主題歌である飯島真理さんの「愛・おぼえていますか」です。この歌は続編でも引き継がれて歌われただけでなく、番組とは関係なくカバーされることも多く、「マクロス」シリーズを代表する名曲となりました。
今なお新作が生み出されている「マクロス」シリーズ、好きな作品は人それぞれかもしれませんが、劇場版『愛・おぼえていますか』が果たした功績はひときわ大きなものかもしれません。
(加々美利治)