スイッチ2は「他社と競争せず」正統進化 価格「5万円以下」任天堂の差別化戦略
任天堂が発表した次世代機「スイッチ2」は5万円を切る価格設定ながら、性能と機能を向上。他社との性能競争に巻き込まれず、独自路線を貫くことで、ユーザーニーズに応える絶妙なバランスを実現しました。
価格と性能を「抑えた」から他社ゲーム機に勝てる?

任天堂はついに次世代ゲーム機「Nintendo Switch 2」(以下、スイッチ2)の詳細情報を公開しました。従来のNintendo Switchよりも本体および画面サイズが大型化し、専用ソフトのデモを見る限り、グラフィックも大幅に進化しています。さらに新機能「GameChat」により、ボイスチャットやビデオチャットもできる充実ぶりです。
それでいて、日本でのメーカー希望小売価格は4万9980円に抑えられています。スイッチ有機ELモデルよりも1万円以上高くなっていますが、米国価格の約450ドル(約6万6000円)と比較すると、国内向けに優しい価格設定です。これだけの内容を詰め込んで、任天堂はよくがんばったとの声も一部で上がっています。
しかし、スイッチ2の本当に素晴らしい点は、「他社とのパフォーマンス競争に付き合っていない」ことにあります。
任天堂はスイッチ2の搭載チップを「NVIDIA社製カスタムプロセッサー」とだけ明かしており、搭載RAM容量も(12GBとの説が有力ですが)公表していません。しかし、据え置きのTVモードでの消費電力は、任天堂製のACアダプターが最大60W対応であることから推測できます。
ゲーム機のパワーは、ほぼ消費電力に比例します。ソニーのPlayStation 5やマイクロソフトのXbox Series Xは平均200W程度といわれており、単純に計算すればスイッチ2の性能は1/3以下となります。初代スイッチから「携帯ゲーム機と据え置き機のハイブリッド」を受け継ぎ、バッテリーで動く携帯モードが重要なため、おのずとパワーには制約が課せられます。
また、任天堂のゲームは任天堂ハード向けに作られ続けており、「PlayStationやXboxよりも非力な環境で魅せる」莫大なノウハウが蓄積されています。そのため、任天堂としては性能を大きく向上させる必要は感じていないはずです。スイッチ2でのパワーアップは、これまで参入を思いとどまっていた大手パブリッシャーが敷居をまたげる程度で十分というわけです。
逆に、仮にスイッチ2の性能を他社ゲーム機並みに引き上げたとすれば、大きなリスクを伴います。まず、携帯モードでの消費電力が大きくなり、バッテリーが1時間と持たないか、持たせるために大容量バッテリーを搭載し、本体が重くなるかのどちらかになります。
また、任天堂ハードを購入する主な客層は、『マリオ』や『ゼルダの伝説』、『カービィ』や『どうぶつの森』など任天堂タイトルを楽しむユーザーが大半を占めています。それ以外の、大手サードパーティによる豪華なAAAタイトルを遊びたい人たちの比率は少なく、決してメインにはなり得ません。
もしもAAAタイトルがガンガン動かせる高性能にすれば、本体価格も高くなります。普段は滅多に使わない機能に、それほどのお金を払う人がどれだけいるのでしょうか。スイッチ2の性能に不満を感じる客層は、他社のゲーム機やゲーミングPCと「比べる」人たちであり、任天堂に対する忠誠心は期待できません。
そうした諸々を考えると、スイッチ2は「初代スイッチの熱心なユーザーにとって、数年ぶりの乗り換え先」として絶妙な性能と価格のバランスを実現しています。任天堂が他社との性能競争に付き合っていたなら、このバランスは崩れていたでしょう。
なお、スイッチ2はバッテリー持ちが現行スイッチより2時間ほど短くなっていたり、Joy-Con 2では初代にあったIR(赤外線)センサーが削除されていたり、細かな妥協やコストダウンが見受けられます。おそらく、より高価なProモデルなども視野に入れている可能性があり、任天堂がさまざまな戦略を考えていることがスイッチ2の仕様から推測できるのです。
(多根清史)