「ギャン」の真価は撤退戦? 装備を見直すと見えるコンセプトとコンペに負けたワケ
『ジークアクス』でも大いに見せ場のあったモビルスーツ「ギャン」、そのオリジナルは「近接戦重視」のほかに、もうひとつ別のコンセプトがあるように見えます。そしてそれは、慧眼としかいいようのないものでもありました。
武装と機体の特徴が示す設計思想とは

『機動戦士Gundam GquuuuuuX(ジークアクス)』の内容を受け、この数か月、「ガンダム」シリーズの懐かしいキャラやモビルスーツ(MS)が大いにSNS上などで話題となりました。MS「ギャン」の名前もずいぶんと聞かれます。
そのギャンのオリジナルは、アニメ『機動戦士ガンダム』の後半に登場した、ジオン公国軍の次期主力MS選定で「ゲルググ」と採用をかけて争い敗れた機体です。
ギャンが敗れた理由は、近接戦主眼で汎用性に欠けるところとされます。しかしその装備をじっくり見ていくと、「もしかしてこれがコンペに敗れた理由のひとつではないか」と思えるような、もうひとつのコンセプトも浮かびあがってきそうです。果たして、ギャンはどういった思想で作られたのでしょうか?
ギャンは中世の騎士のような姿を持ち、突き技主体の剣技がプログラムされています。突きは周囲に被害を出さずに使えますから、狭い空間で戦うことが想定されているとも考えられそうです。ギャンのビームサーベルは貫通力が強化されており、敵の装甲が厚くても確実にダメージを与えられたことでしょう。
また、ギャンの肩は小さく丸いものになっています。同じ近接戦重視のMSである「グフ」の肩には角のようなスパイクが生えており、競合機のゲルググには大きな肩アーマーがあるのとは対照的です。こちらも狭い空間での運用が重視されているように見えます。
盾からは浮遊機雷「ハイド・ボンブ」を散布可能です。機雷は敵を待ち受け、けん制、誘導し、特定の空間に入らせないために使う、戦闘領域を区切る兵器といえます。つまり敵陣に攻め込む際よりも、自軍の陣地が襲われた際のほうが真価を発揮するタイプといえそうです。ハイド・ボンブを大量にまけば、味方の戦力不足なども補えたことでしょう。
ギャンの頭部は後ろにもモノアイ(カメラ)が回りますが、これは後方視界を確保するためです。自分から攻め込む戦いや、味方が多い戦場ではそこまで後方を気にする必要もないはずで、これは味方に背中を預けられない戦いが想定されているのではないでしょうか。
このように、ギャンからは「一定の限られた空間で、敵MSと戦う」コンセプトが見えてきます。さらに俯瞰(ふかん)して見れば、負け戦の本土決戦や要塞といった限定された空間で、撤退しながらの戦いや奇襲に有利になるように作られている、とも考えられるでしょう。
しかし、上層部が望むのは戦争に勝つことなので、ギャンが採用されなかったのも理解できます。こうして、「危険な最後尾を引き受け、味方を守る騎士」としてのギャンの姿は、闇に消えていったのです。
ギャンの試作機が提出されたのは「一年戦争」の後期でした。しかし、MSが一朝一夕に作れないことを考えると、コンセプトが考案されたのは戦争の早い段階になります。
つまり開発陣は、戦争が早期に講和できなかった時点で負け戦を想定していたのかもしれません。結果、ジオン軍は実際に負けており、ギャンのコンセプトはなかなかの慧眼だったといえます。ジオン軍は、ギャンを提出した「ツィマッド社」の首脳を早々に軍事顧問へ迎えるべきだったのではないでしょうか。
(箭本進一)