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映画『ペリリュー』で描かれる、正反対の「上司」2人 戦場での命運を左右した「裏主人公」

人望のある島田少尉とは真逆のキャラクター

部隊をまとめ上げる上官、島田少尉(右)のほかに、規律から外れたもうひとりの「上官」の存在も、田丸らの運命を左右する (c)武田一義?白泉社/2025「ペリリュー ?楽園のゲルニカ?」製作委員会
部隊をまとめ上げる上官、島田少尉(右)のほかに、規律から外れたもうひとりの「上官」の存在も、田丸らの運命を左右する (c)武田一義?白泉社/2025「ペリリュー ?楽園のゲルニカ?」製作委員会

 もうひとり、田丸たちに大きな影響を与える上官がいます。小杉伍長(CV:藤井雄太)です。戦争に対して懐疑的で、常に自分の身を守ることを第一に考えています。島田少尉たちが拠点にする洞窟とは別に、ジャングルで自活しながら独自に行動しています。島田少尉とは、実に対照的な存在です。

 田丸から見てもあまり尊敬できない上官なのですが、愛国心の強い島田少尉とは異なる価値観を持つ小杉伍長がいなければ、田丸たちは早い段階で米軍相手に玉砕死していたでしょう。

 戦場のような極限状態においては、「善か悪か」という道徳的な判断では生き残ることは不可能なのではないでしょうか。『ペリリュー』では日本兵か米兵かは関係なく、それぞれのキャラクターが克明に描かれています。生と死の関係性もとてもフラットです。単なる反戦マンガ、反戦アニメとは言い切れない深淵さを感じさせます。

 もし、自分があの島にいたら、島田少尉と小杉伍長のどちらに就くか……。物語が進んでいくうちに、自分も田丸たちと同じ隊にいるような気になってきます。そして、映画のクライマックスで、田丸たちは極めて難しい決断を迫られることになるのです。

戦争マンガのきっかけとなったデビュー作

 武田氏のデビュー作『さよならタマちゃん』(講談社)を読み、白泉社の編集者は武田氏に戦争マンガの執筆を打診しています。2013年に発行された『さよならタマちゃん』は、人気漫画家のアシスタントを長年務めていた武田氏自身が2010年に精巣腫瘍で入院した実話を描いた闘病マンガです。

 抗がん剤の副作用に苦しみつつ、同じ病棟でがん治療に向き合う入院患者や医師、看護師らと交流した体験がコミカルに、時にシリアスに描かれています。ひと癖もふた癖もある登場人物たちは、『ペリリュー』と同じような三等身キャラとなっています。

 病室で死の影におびえながら、愛する妻と愛犬の待つ自宅に無事に戻ることを願い、つらい治療に耐え続けた武田氏だっただけに、生命の重さとはかなさを身近に感じていたようです。そんな武田氏だからこそ、『ペリリュー』も迫真の物語として描き上げることができたのだと思います。

 戦争や歴史に興味がない人も、『ペリリュー』を観ることで極限状態に置かれた人たちの心情に触れることができるのではないでしょうか。

●劇場アニメ『ペリリュー ?楽園のゲルニカ?』
原作/武田一義 監督/久慈悟郎 脚本/西村ジュンジ、武田一義
声の出演/板垣李光人、中村倫也、天野宏郷、藤井雄太、茂木たかまさ、三上瑛士
配給/東映 PG12 12月5日より劇場公開中
(c)武田一義・白泉社/2025「ペリリュー ―楽園のゲルニカ―」製作委員会

【画像】「えっ」「どっちに就くのが正解なんだ」これが『ペリリュー』日本軍の「正反対な上司」2人です(6枚)

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長野辰次

フリーライター。映画、アニメ、小説、マンガなどのレビューや作家インタビューを中心に、「キネマ旬報」「映画秘宝」などに執筆。現在公開中の『八犬伝』(キノフィルムズ配給)の劇場パンフレットなどにもレビューを寄稿している。

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