前代未聞の漫画に挑む「ヤンジャン」編集者・李さん「リアル版バクマン。を楽しんで」
作家の思いをどう「出力」し、世の中の価値観と接続していくか?

──マンガのヒット作を生み出すうえで、編集者の方々は「面白さを見出す」ことが非常に重要だと思います。普段からどんな点を意識して、仕事をされていますか?
李 これは難しい質問ですね(笑)。
僕は常に、マンガにおいて一番大切なのは「キャラクター」であると考えています。キャラクターそのものの面白さが、マンガの面白さの大事な部分を占めているかなと。実際に僕は、キャラクターを考えるときにYouTuberやタレントなど、今どんなタイプの人が世の中で受け入れられやすいのかをよくチェックします。
たとえば、お笑い芸人の人気ランキングを見ると、現在と20年前ではまったくタイプの違う人がランクインしていると思うんです。おそらく20年前は、ずけずけとハッキリものを言うタイプの人間が好まれていました。しかし、現在はタイプが変化していると思います。
作家が描けるもの、描きたいものを第一に考える。その上で、今の時代にどんなキャラクターが求められているのかを意識して、マンガに落とし込んでいくわけです。
──キャラクターの設定を考える上で、社会のトレンドにも着目するわけですね。
基本的に、作品は作家の内側にある思いが表出して構築されています。僕はそれをどう出力するかで、世の中の大きな部分と接続できるかを考えるんです。作家さんにとっては、メインキャラもサブキャラもすべて自分にとっての分身じゃないですか。そのなかで、メインキャラをどういう側面から切り出して表現するか。そこは相談しながら決めていきます。
──マンガ編集者の仕事について、どんな点に注目してほしいですか?
李 これまで、編集者が作家と打ち合わせをし、マンガの企画をブラッシュアップする光景は、あまり見せる機会がありませんでした。僕達はあくまでサラリーマンですが、一方で非常に属人性の高い職種でもあります。
そのため、編集者によって作家へのアプローチが全く異なります。会話のはじめかた、本題への入り方、作品に対する否定・肯定のしかたなど。他の企業ならあるはずの、マニュアルがほとんど存在しないがゆえに生まれるこの違いこそが、編集者のすごく面白いところだと思います。
「MILLIONTAG」はさまざまな編集者が参加するので、それぞれのスタイルの違いや、それぞれのアプローチからどんな作家が誕生するのかを楽しんでほしいです。
──李さん自身は、仕事のスタイルをどうやって身につけたんですか?
李 編集者は基本的に、入社時に先輩社員から担当作品を引き継ぎます。その際、どの先輩から引き継ぐかで編集者としての「根っこ」が固まる印象です。しかし、先輩社員がつきっきりというわけではなく、打ち合わせや持ち込みといったシーンも、一度先輩社員についてもらったらあとはひとりで行います。
そのあとは、自分でスタイルを模索したり、先輩からいろいろと話を聞いたり……たくさんの経験を吸収して身につけていくという感じです。
──そうやって培った経験が、「MILLION TAG」でどう作品に反映されるかがとても楽しみです。最後に、「MILLION TAG」から生まれる作品に注目する読者の皆様に、メッセージをお願いします。
「MILLION TAG」は、皆さんが手にとって読んでいるマンガの舞台裏をお見せできる、非常に斬新な企画です。作家と編集者というふたつの職種の人間が、二人三脚で打ち合わせをしながらマンガを作っていく様子や、作品を生み出すための作家の奮闘を、メイキングビデオを観るように楽しんでいただけると思います。
編集者は「黒子」なので、あまり前に出るべきではないという思いは正直あります。しかし、「編集者はただ原稿を受け取る仕事じゃないんだよ」ということは伝えていきたいです。作品に対するものすごい熱意を持ち、ゼロ→イチを創造する面白さがある仕事であると、伝わったら嬉しいですね。
「MILLION TAG」から生まれる作品は、大ヒットする可能性も秘めています。人気作品が生まれる瞬間のワクワク感を、リアル版『バクマン。』と思って楽しんでいただければ、マンガをもっと好きになっていただけるのではないでしょうか。
(サトートモロー)
※「MILLION TAG」は、2021 年 3 月 21 日(日)まで挑戦者を募集しています。詳細情報は公式サイトに掲載。マグミクスでは、引き続き「MILLION TAG」に参加予定の編集者の声を紹介していきます。