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前代未聞の漫画に挑む「ヤンジャン」編集者・李さん「リアル版バクマン。を楽しんで」

『SPY×FAMILY』『怪獣8号』『終末のハーレム』など数々のヒット作を生み出している「ジャンプ+」は、マンガアプリのなかでますます大きな存在感を示しています。この2021年には、集英社の編集者と挑戦者がタッグを組んで優勝を目指す新たな漫画賞「MILLION TAG」が開催されます。企画に参加する編集者たちの声を紹介します。

作家の「武器」を考え抜いて生まれた、人気2作品

お話を伺った、「ヤングジャンプ」編集部の李光朗さん
お話を伺った、「ヤングジャンプ」編集部の李光朗さん

 数々の話題作を生み出している集英社のマンガアプリ「少年ジャンプ+」が、次世代のスター漫画家の発掘を目的とした新漫画賞「MILLION TAG」(ミリオンタッグ)を発表し、挑戦者を募集しています。選考を経て選ばれた6人の連載候補作家と、集英社の編集者6人がそれぞれタッグを組んで優勝を目指し、作品の制作過程も動画配信されるという、前代未聞の企画です。

 集英社から「MILLION TAG」に参加する編集者は、いずれもヒット作を次々と生み出し続けているスゴ腕の編集者たちです。彼らは普段の作品づくりや今回の「MILLION TAG」について何を考えているのでしょうか。今回は、連載候補者とタッグを組む編集者のひとり、「週刊ヤングジャンプ」編集部の李光朗さんにお話を聞きました。

 李さんは、『久保さんは僕を許さない』(作・雪森寧々)、『疫神のカルテ』(作・樋口紀信)、『転生ゴブリンだけど質問ある?』(原作・三木なずな、マンガ・荒木宰)などの作品を担当しています。

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──面白い作品を生み出すために、普段から担当作家とどのようなやりとりを心がけていますか?

李光朗さん(以下、敬称略) 作家さんによって、それぞれ「武器」となるものは違います。例えば、女の子の絵を魅力的に描ける人、目を引く演出力のある人、共感度の高い人間を描くのが上手な人、嫌なヤツを描くのが得意な人……。

 そうした作家の個性に基づいて、どういう企画やジャンルが適正なのかを考えます。『久保さんは僕を許さない』の雪森寧々先生はまさに、ラブコメが持ち味と合致していて、作品の中でいいところがたくさん出ています。

『疫神のカルテ』の樋口紀信先生は、画力や演出力、セリフの力が突出していました。ですが、ダークファンタジーというだけだと、企画として少し曖昧になりがちなので、「医療」というテーマと絡ませたんです。樋口先生は取材力も高く、それが作品の面白さにも反映されています。

 漫画家の強みを見極めた上で、作品や企画を面白くするためにどうすればいいかを考える。漫画家の強みを見つけ出すために、相手としっかり打ち合わせをするのが一番重要だと思います。

李さんの担当作品のひとつ『久保さんは僕を許さない』。クラスで目立たない”モブ男子“の主人公と、クラス一の美少女で、何かと主人公にちょっかいをかけてくる久保さんの物語 (C)雪森寧々/集英社
李さんの担当作品のひとつ『久保さんは僕を許さない』。クラスで目立たない”モブ男子“の主人公と、クラス一の美少女で、何かと主人公にちょっかいをかけてくる久保さんの物語 (C)雪森寧々/集英社

──多くの作品がひしめき合う「1対1ラブコメ」のジャンルで、『久保さんは僕を許さない』は見事にヒットしました。どのようにして生まれた企画だったのでしょうか?

 雪森先生の強みは、「女の子の可愛さの質が高い」という点にあります。誰もが思い浮かべる理想の美少女を描く能力が非常に高いのです。作家が持つ唯一無二の武器をどう最大化させて、強い絵をどこにもっていくか……といった工夫を重ねました。「ラブコメ」というフォーマットや「学校」というシチュエーションはいたって一般的ですが、先生自身の持ち味が開花して、この作品にしかないピュアさや甘酸っぱさが表現されたことが、ヒットにつながったと思っています。
 
──では、『疫神のカルテ』は、どのような経緯で生まれたのでしょうか?

李 『疫神のカルテ』は、構想にとても時間がかかったのを覚えています。樋口先生は青年誌にぴったりな演出力や、立ち絵で魅了する画力、設定構築力、セリフ単体の説得力などを備えた、非常に高いレベルの作家さんです。しかし、いろいろ描けるがゆえに、作品が肥大化してしまうという懸念もありました。一般的なダークファンタジーという要素だけでは、なかなか企画が立ちづらい……どういうフォーマットにはめるのが一番いいのかを考えた末に、「患者を救う医師」の要素を加えました。

 企画の構想に約2年、そこから連載開始までにさらに1年かかっているので、3年かかってようやく今の形を実現できたんです。

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