『東京ゴッドファーザーズ』BSで放映 今敏監督はコロナ不況を予見していた?
人と人とを分断する「格差社会」がテーマ

今敏監督の作品は、虚構と現実がせめぎ合う独特な構造で人気があります。『千年女優』(2002年)などの夢の世界がどこまでも続く多重構造となっている今敏ワールドは、一度観るとどっぷりとハマってしまいます。その点、『東京ゴッドファーザーズ』は現実の東京の街並みをリアルに再現しており、虚構的な要素は少ないように感じられます。では『東京ゴッドファーザーズ』は、今敏監督にとって例外的な作品なのでしょうか?
夢と現実ではありませんが、『東京ゴッドファーザーズ』も対立構造の物語です。シビアな「現実」の世界で生きるホームレスたちの目線に立てば、安定した生活を送る一般市民は「虚構」世界の住人のように感じられます。逆に一般市民には、ギンちゃんたちが「虚構」的存在に感じられています。
ホームレスと一般市民との間には、目には見えない境界線が引かれていることが分かります。今の日本を取り巻く「格差社会」をテーマに、今敏監督はギャグやアクションを盛り込んだエンタメ作品として『東京ゴッドファーザーズ』を制作していたのです。
格差社会の底辺で生きるギンちゃんたちには、「虚構」世界で暮らす一般市民には見えないものが見えています。その象徴が「清子」です。生まれて間もない清子は、そのままでは凍死してしまうところでした。クリスマスで浮かれる一般市民は、ゴミ集積所に置き去りにされた赤ちゃんの泣き声には誰も気づくことができなかったのです。そして「現実」の世界で生きるギンちゃんたちは、清子のために「虚構」の世界へと足を踏み入れることになるのです。
同じ街で暮らす人が「透明人間」に見えてしまう悲喜劇
お笑いコンビ「ウーマンラッシュアワー」の村本大輔さんのネタに、「透明人間」というのがあります。大型台風が首都圏を直撃した際、避難所を訪れたホームレスは住民票がないことから入ることができなかったという実際に起きた出来事を風刺したものです。住民票を持っていないホームレスが、住民票を持つ側から「透明人間」扱いされたことを村本さんはブラックジョーク化しています。
経済格差が進む今の社会では、同じ世界で生きていても大きな隔たりが生じるようになっています。安定した生活を送る一般市民には、社会のレールからこぼれ落ちた人たちの存在が「透明人間」同然となっています。今敏監督は早くから、そのことを察知し、劇場アニメーションへと昇華してみせていたのです。
米国ではクリスマスの季節になると、フランク・キャプラ監督のファンタジー映画『素晴らしき哉、人生!』(1946年)が度々テレビ放映されるそうです。『素晴らしき哉、人生!』は、生きる希望を失って自殺しようとした主人公が二級天使と出会い、考え方を改めるというハートウォーミングなコメディです。
慌ただしい年末ですが、ひと晩くらい『東京ゴッドファーザーズ』や『素晴らしき哉、人生!』みたいな心温まる作品をじっくりと楽しんでもいいんじゃないでしょうか。天使もにっこりと微笑んでくれる、そんな作品です。
(長野辰次)