『クラッシャージョウ』BSで放送 安彦氏のロマンが詰まった陽気なSFアニメ
ククルス・ドアンを思わせる孤高の存在

「その洗練された線と、それが生み出すフォルムの流麗さに唖然としたことを覚えている」
これは『安彦良和画集』(講談社)のなかで、富野由悠季監督が『勇者ライディーン』での安彦氏との出会いについて語った言葉です。おふたりは『無敵超人ザンボット3』でもタッグを組んでいます。ラフなスケッチしか描くことのない富野監督にとって、富野監督の世界観や歴史観を理解した上でビジュアル化してくれる安彦氏の画力は、とても頼もしかったことでしょう。
絵のうまさは誰もが認める安彦氏ですが、『クラッシャージョウ』で監督デビューを果たした後、自身のマンガを原作にした『アリオン』(1986年)や『ヴィナス戦記』(1989年)を劇場アニメ化して以降は、しばらくアニメ界から距離を置くことになります。
1980年代は、宮崎駿監督の劇場アニメ『風の谷のナウシカ』(1984年)や大友克洋氏の長編アニメ監督デビュー作となった『AKIRA』(1988年)などが大きな話題を呼びました。監督作が商業的な結果を残すことができなかったこともあり、安彦氏は1990年代以降、マンガ執筆に専念するようになります。『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』は、四半世紀ぶりとなる監督復帰作でした。孤島で隠遁生活を送っていたククルス・ドアンを思わせるものがあります。
未開地のようだった黎明期のアニメ界
マンガ家・安彦良和氏の代表作のひとつに『虹色のトロツキー』が挙げられます。かつて中国大陸に13年間だけ存在した「満洲国」を舞台にした歴史マンガです。日本人の父とモンゴル人の母との間に生まれた青年が、実在した軍人、格闘家、馬賊、歌姫らと出会い、歴史の波に翻弄されるスケールの大きな物語です。北海道開拓民の家系に生まれ、歴史好きな安彦氏にとって、思い入れの強い作品となっています。
安彦氏は1970年に「虫プロダクション」養成所に入り、アニメーターとしてのキャリアをスタートさせています。黎明期のアニメ界は、それこそ未開地の開拓団のように多種多様な人たちが集まっていました。弘前大学を除籍されて上京してきた安彦氏にとって、かなりアバウトだった当時のアニメ界は、仕事はハードだったものの、居心地のよい職場だったようです。
近年のデジタルアニメとは違い、劇場アニメ『クラッシャージョウ』には手描きアニメならではの人間味やおおらかさが感じられます。未開の惑星で、ジョウたちは生き生きと活躍します。宇宙海賊たちを相手にピンチの連続に陥りますが、ジョウと仲間たちは陽気に乗り切っていきます。安彦氏がアニメーターとしての腕を磨いていった1970年代のアニメ界の雰囲気が濃厚に伝わってきます。
未開のジャンルだったアニメの世界で、黎明期から奮闘してきたアニメーターたちの情熱と矜恃(きょうじ)といったものを、ジョウたちからは感じることができます。若き日の安彦氏が夢見た冒険とロマンを詰め込んだSFアニメが、劇場版『クラッシャージョウ』ではないでしょうか。
(長野辰次)