『スチームボーイ』BSで放映 大友克洋氏の「尋常でないこだわり」が詰まった描写とは
見事に再現された「ロンドン万博」の水晶宮

アニメ作品に登場する博覧会というと、庵野秀明監督の『ふしぎの海のナディア』(NHK総合)で描かれた1889年の「パリ万博」を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。『スチームボーイ』で描かれる「ロンドン万博」は、それよりもさらに早い1851年の開催です。
ビクトリア朝時代の大英帝国の国力を世界に向けて誇示したのが、この「ロンドン万博」でした。「ロンドン万博」のメイン会場となった水晶宮(クリスタル・パレス)が、『スチームボーイ』では見事に再現されています。大友作品ならではの、ディテール豊かな背景美術は大きな見どころです。
万博会場を守るロンドン市警察、及び英国軍と「オハラ財団」が開発した蒸気兵団との交戦が、迫力たっぷりに描かれています。企画から作品の完成までに9年の歳月を費やした、大友氏の尋常ではないこだわりを感じさせるスペクタクルシーンとなっています。
期待される大友氏の新作『ORBITAL ERA』
ファンの多くは『AKIRA』で描かれた近未来の続きを見たがっていたこともあり、産業革命期の冒険談『スチームボーイ』は、期待されていたほどの興収結果を残すことはできませんでした。
しかし、『スチームボーイ』には「科学や発明は誰のためのものか?」という普遍的なテーマが込められています。レイの父親・エドワードは「科学の力こそが、人々の生活を豊かにする」と信じ、そのデモンストレーションのために「スチーム城」を完成させたのです。一方、祖父のロイドは「科学に対する過信は、人類に不幸を招く」と警告します。祖父と父の対立に、レイは苦悩することになります。
確かに産業革命は英国に大繁栄をもたらしましたが、その一方では貧富の差が広まるという「格差社会」も生み出すことになりました。明るい光ほど、暗い影が生じます。よく効く薬ほど、副作用も強くなります。産業革命期の問題点は、デジタル革命期にあたる現代にも共通するものだと言えるでしょう。
大友氏は「マンガの神様」と呼ばれる手塚治虫氏の代表作『鉄腕アトム』の英題『ASTRO BOY』にあやかって、本作を『スチームボーイ』と命名しています。大友氏にとっても、日本におけるマンガ界&アニメ界の始祖である手塚治虫氏は特別な存在のようです。そう考えると、祖父・ロイドは手塚治虫氏、父・エドワードは大友氏自身、主人公であるレイはこれからのマンガ界&アニメ界を目指す若者たち……、と置き換えて観ることも可能ではないでしょうか。
マンガとアニメに革命をもたらした大友克洋氏は、『AKIRA』完全版のアニメ化や近未来のスペースコロニーを舞台にした新作アニメ『ORBITAL ERA』の企画を準備しているそうです。どうやら、大友氏の革命はまだまだ進行中のようです。革命の行末には、どんな未来が待っているのでしょうか。
(長野辰次)