記憶をめぐるアニメ『千年女優』BS放映 藤本タツキファンにも、ぜひ観てほしい!
人気マンガ家・藤本タツキ氏の新刊『さよなら絵梨』は、自主映画を撮ろうとする少年と被写体になる少女を主人公にした青春ストーリーです。今敏監督の劇場アニメ『千年女優』も、伝説の女優をめぐるドキュメンタリー製作の物語となっています。どちらも、さまざまな映画をモチーフにしており、元ネタを知れば、ますます面白くなるはずです。
映画愛にあふれたマンガと劇場アニメ
人気マンガ家・藤本タツキ氏の新作コミック『さよなら絵梨』(集英社)が、話題となっています。TVアニメ化が決定しているアクションもの『チェンソーマン』でブレイクした藤本氏ですが、『さよなら絵梨』はスマホを使って自主映画づくりに没頭する中学生・優太と、映画に詳しい謎めいた美少女・絵梨とのせつない恋愛ファンタジーとなっています。
藤本タツキ作品は、さまざまな映画から影響を受けていることが知られていますが、映画鑑賞や映画撮影が物語のモチーフにもたびたびなっています。『さよなら絵梨』は、『ファイト・クラブ』(1999年)や『ぼくのエリ 200歳の少女』(2008年)などの洋画に加え、日本のドキュメンタリー映画『監督失格』『エンディングノート』(2011年)といった作品からの影響も感じさせます。とても映画愛にあふれたマンガです。
同じように古今東西の多彩な映画をモチーフしているのが、今敏監督の劇場アニメ『千年女優』(2001年)です。2010年8月24日に、46歳で亡くなった今敏監督の最高傑作とも称されている作品です。2022年8月7日(日)の夜7時からBS12の「日曜アニメ劇場」にて放映される、『千年女優』の魅力について触れたいと思います。
『うる星やつら2』と同じ、多重構造の物語
今敏監督にとって、劇場デビュー作『パーフェクトブルー』(1997年)に続く、監督第2作となった『千年女優』は、宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』(2001年)と「文化庁メディア芸術祭」のアニメーション部門大賞を同時受賞した代表作です。スタジオジブリの大ヒット作と肩を並べる作品であることからも、クオリティの高さは折り紙つきです。
物語の主人公は、映画界の往年の大女優・藤原千代子です。映画界を引退して30年になる千代子は世間からずっと姿を消した状態でしたが、珍しくドキュメンタリーのインタビューを受けることになります。
カメラを前にした千代子は、女優になったきっかけや懐かしい過去の出演作を振り返ります。不思議なことに、インタビュアーもカメラマンも千代子の記憶の世界へと巻き込まれていくのでした。若き日の千代子が体験した初恋の思い出や戦争にまつわるリアルな記憶と、映画のなかで演じた役の設定がないまぜとなり、語り部である千代子はさまざまな時代を行き来します。
どこまでが現実なのか、映画の世界なのか定かではありません。『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』(1984年)と同様に、多重構造の物語となっています。アニメーションならではの、ファンタジックな物語が繰り広げられていきます。