80年代サンライズアニメ発! 伝説の男性声優ユニット「N.G.FIVE」とは
1989年、声優がユニットを組んで歌やダンスを披露することが珍しかった時代、一組の声優ユニットが誕生しました。
伝説の声優ユニット誕生秘話

今、アニメの枠を越えて、アイドルとしても活躍めざましい「声優」。特に、声優たちのグループやユニットでのライブイベント、いわゆる「2.5次元」の舞台劇などでは、男女問わずの「推し活」にいそしむファンもたくさんいます。
こうした声優さんたちの活躍は、たとえば、『宇宙戦艦ヤマト』や『機動戦士ガンダム』など、世間が今のアニメブームの基本を作ったと考えている時代には見かけませんでした。
かつては、画面のキャラクターに声を吹き込んでいたのは、俳優や、ナレーターと呼ばれるCMや番組に声だけで出演するプロたちで、TVや映画、舞台劇などの仕事の合間に請け負うことが多かったと聞きます。
当然そこで使われるのは「声」だけですから、ご本人自身が人前に出ることはなく、支払われる報酬も決して高額なものではなかったという話もありました。ましてTVアニメとなれば、たいがいが低予算です。
たとえ「このキャラクターはこの俳優さんにやって貰いたい」と思っても実現は夢のまた夢。ひとりふたり、ベテランさんに入っていただくのが精一杯というところだったでしょう。
それでも、その当時から「声優ファン」は多く、人気アニメ番組の録音スタジオには、彼ら彼女らの「出待ち」をする熱心なファンもそれなりにいらっしゃったものです。
アニメや映画等のアフレコ現場での声優は、基本的に個々で活動されています。つまり、彼等の人気は、たとえば「ガンダムのアムロ役の古谷徹さん」「シャアの池田秀一さん」という認識での人気だったのです。
ところが、1989年、ひとつの「声優ユニット」が誕生します。当時、サンライズ(現・バンダイナムコフィルムワークス)が企画制作していた『鎧伝サムライトルーパー』という番組の主役である五人の少年たちの声を担当していた声優さんたちが、そのまま「N.G.FIVE」というグループを組んで、歌ったり、役柄としての演技を見せたりというライブ活動を始めたのです。
実は、日本には古くから「男性グループ」が人気になる土壌があります。たとえば歌舞伎には「白波五人男」という、粋で格好のいい男性ユニットの演目がありますし、「南総里見八犬伝」なども8人の若き侍たちが活躍するファンタジーです。
また、60年代に海外からやってきた「The Beatles」を筆頭とするロックバンドや、それを日本流にリスペクトした「グループ・サウンズ」などに、現在の60代・70代の世代は熱狂しました。その流れは、今の「EXILE」や「なにわ男子」にも繋がっているとも言えるでしょう。
元々この『サムライトルーパー』は東映のいわゆる「戦隊もの」の要素を意識しつつ、当時の私も含むサンライズの企画室が企画したものですが、このころ話題だった『聖闘士星矢』や「光GENJI」などの人気も見越して、主力ターゲットだった男児とともに、女子中高校生のハートにも届く工夫も施していました。
それは見事に成功し、五人のキャラクターを演じて下さった声優さん(草尾毅さん、佐々木望さん、竹村拓さん、中村大樹さん、西村智博さん)は、そのまま、いわばキャラクターの身代わりとして彼女らの間でブレイクすることになったのです。
そこで、本放送終了後、すでに企画されていたOVA完成まで、声優たちでのグループ活動を……という流れになったようです(この辺りには全く絡んでおりませんので、あくまでも推測です)。
五人で歌ったり踊ったり……もともとが舞台を踏める俳優さんですから、多少の得手不得手はあったとしても、それはそのままキャラクターのイメージとも重なり、彼らのライブ活動は、TVアニメの世界では初といっていいほどの人気を得ました。
実は声優によるユニット活動としては、有名声優による「スラップスティック」というバンドが1977年から数年間存在しています。メンバーには『ガンダム』の古谷徹さんや『シティーハンター』の神谷明さんなど、現在も第一線で活躍する方々が名を連ねていますが、これは一作品のキャラクターたちをそのまま投影したユニットとは性質がちがう、声優によるロックバンドのような活動でした。
「N.G.FIVE」で得たアニメの二次元集団キャラクター人気=担当声優集団の人気にもなりうるという経験は、特に音楽業界と興行界を動かしていったのでしょう。やがて、こうした流れから、若くてイケメン、美人の声優に、アクションや歌、舞台演出などを加え、平面の絵だったはずのアニメーションが、現実の世界に飛び出したような「2.5次元」と言われるジャンルが作り上げられてゆくのです。
私個人は、最近の声優さんもユニットの活動に関しても無知ですが、『サムライトルーパー』では、TVシリーズの企画から小説、CDドラマ(音だけで楽しんでいただくシリーズの番外編的なもの)をあれこれ担当させていただきました。それもみな、声優さんたちの生み出す「生きたキャラクター表現」のおかげあってこそです。
絵、動き、音、声……どれひとつ欠けても日本のTVアニメーションは成り立ちません。かつては「食えない俳優のアルバイト」なんて卑屈な呼ばれ方もした声優が、エンターテイメントに斬り込んだ「アイドル声優ユニット」というジャンル。彼らの頑張りが、是非ともファンの方々の素敵な「妄想」の良きパートナーであって欲しいと願うのです。
そうそう。「N.G.FIVE」のN.G.は、映像業界でよく使われる「失敗・やり直し」を意味する「NO GOOD」を略した言葉です。アフレコなどの音の責任者で『サムライトルーパー』の音響監督だった故・千葉耕市さんが「五人ともよくNGを出す」と言ったのがこのグループ名になったのだとか。この千葉さんですが、ご本人も声優です。かつてTV等で流れていたホラー映画のCM「バタ~リア~ン」というおどろおどろしい声の主は彼なのです。
【著者プロフィール】
風間洋(河原よしえ)
1975年よりアニメ制作会社サンライズ(現・バンダイナムコフィルムワークス)の『勇者ライディーン』(東北新社)制作スタジオに学生バイトで所属。卒業後、正規スタッフとして『無敵超人ザンボット3』等の設定助手、『最強ロボ ダイオージャ』『戦闘メカ ザブングル』『聖戦士ダンバイン』『巨神ゴーグ』等の文芸設定制作、『重戦機エルガイム』では「河原よしえ」名で脚本参加。『機甲戦記ドラグナー』『魔神英雄伝ワタル』『鎧伝 サムライトルーパー』等々の企画開発等に携わる。1989年より著述家として独立。同社作品のノベライズ、オリジナル小説、脚本、ムック関係やコラム等も手掛けている。
(風間洋(河原よしえ))