『Z』ジオン大嫌い「ティターンズ」の主力MSがモロにジオンな「マラサイ」のワケ
『機動戦士Zガンダム』の、ジオン残党の掃討を旨とするティターンズで、なぜあれほど一目瞭然にジオン系なモビルスーツ「マラサイ」が主力MSとして採用されたのでしょうか。その開発と採用の経緯、そして後の「再就職先」を追います。
連邦軍所属なのにジオン系列のモノアイ装備のワケ

TVアニメ『機動戦士Zガンダム』の敵勢力「ティターンズ」が主力としていたMS(モビルスーツ)「RMS-108 マラサイ」は、一見してジオン系のデザインとなっています。そもそもティターンズは、ジオン残党の掃討を掲げる勢力のはずですが、なぜこのようなMSを採用しているのでしょうか。
「マラサイ」は系列的には「RMS-106 ハイザック」の発展機、これに、「一年戦争」中にジオン公国軍が量産した「MS-09 ドム」のノウハウを加えたと設定されています。これらの理由から「ジオン系のデザインであること」は当然だといえるでしょう。
ちなみに「ハイザック」は一年戦争終了後、地球連邦軍がジオン軍の名機だった「MS-06 ザクII」をベースに、連邦軍規格の部品で再現した機体です。いわば、「ザク」に「RGM-79 ジム」の設計を強引に組み合わせたハイブリッド機というべきMSでした。「ザ・量産型」ともいうべき機体でしょうか。
この開発を連邦軍と共同で行ったのが、月の軍産複合体企業「アナハイム・エレクトロニクス」でした。連邦軍は戦後から開発拠点がわかるよう、型式番号の数字の上2桁を拠点コード、下1桁を開発順と定めています。つまり上の「10」は月の拠点のひとつ「グラナダ」で開発、その「6」番目の機体が「ハイザック」でした。
こう読み解いていくと、「マラサイ」も同じくアナハイムが開発していたMSとわかります。数字がひとつ飛んでいますが、この間に入る「107」は、雑誌企画『ADVANCE OF Ζ ティターンズの旗のもとに』では「RX-107 ロゼット」という、「マラサイ」に似たMSが設定されていました。
こうした経緯から「マラサイ」は、「ハイザック」以上のスペックを持ちます。そのわかりやすい具体例のひとつが、「ハイザック」ではできなかった「ビーム・ライフル」と「ビーム・サーベル」の同時使用でした。「ハイザック」はジェネレーターの関係で、ビーム兵器はひとつずつしか使用できなかったのです。
さらに、装甲には開発当時、新素材であった合金「ガンダリウムγ(ガンマ)」を使用し、防御面の向上と軽量化に成功しました。これにより「第2世代モビルスーツ」と呼ばれるカテゴリーの機体になります。ロールアウト当時の量産型MSとしては最先端の機体でした。
この「マラサイ」は、本来ならアナハイムが支援する組織「エゥーゴ」に提供される予定だったのですが、運命のいたずらか敵対組織であるティターンズに無償提供されることになります。それはティターンズから、エゥーゴとの関係を疑われたアナハイムの政治的判断でした。
最新鋭の量産機を提供することで、ティターンズからの疑いの目をそらす目的というわけです。これによりティターンズ側にも新素材である「ガンダリウムγ」が流出し、戦いは激化の様相を呈していきました。これには「死の商人」と陰口をたたかれるアナハイムの計算があったのかもしれません。
こうしてジオン系のデザインを強く残す「マラサイ」は、皮肉にもジオン軍残党を掃討する組織ティターンズの主力MSとなったわけです。「ハイザック」はあえてザクのデザインを残してジオンを威嚇するという意図があったともいわれていますが、「マラサイ」はまったくの偶然でした。
ちなみにアナハイムが「マラサイ」の代わりにエゥーゴに提供したMSが「MSA-003 ネモ」です。こちらはジム系統の発展型MSで、皮肉にも連邦軍直系のデザインといえるでしょう。
これにはアニメ製作サイドに逸話があります。もとはエゥーゴ用にデザインされた「マラサイ」でしたが、「友軍量産機はジム顔」という意見から、急遽ティターンズ側となった経緯がありました。それが劇中の設定につながったともいわれています。
このように劇中でもリアルでも数奇な運命を歩んだ「マラサイ」ですが、この先にも思わぬ運命が待っていました。