『王立宇宙軍 オネアミスの翼』公開から33年。ガイナックスの原点は「異色作」だった
『トップをねらえ!』『ふしぎの海のナディア』『新世紀エヴァンゲリオン』『天空突破グレンラガン』ほか、数々の人気作品を生んだアニメ制作会社「ガイナックス」の処女作『王立宇宙軍 オネアミスの翼』が公開されて33年となりました。同作がいまなお異彩を放っている理由について解説します。
制作費28万円の8ミリ映画から8億円の全国ロードショーへ
架空の国、オネアミス王国の名ばかりの宇宙軍で、怠惰な日々を過ごしていたごく平凡な青年シロツグ・ラーダットは、街で神の教えを説く少女リイクニ・ノンデライコとの出会いをきっかけに、「人類初の有人宇宙飛行計画」のパイロットを目指すようになる。だが計画が進展するうち、宇宙軍の存在をよしとしない王国上層部や隣国の手がシロツグたちの周辺に伸び……。
1987年の3月14日、のちに『トップをねらえ!』『ふしぎの海のナディア』『新世紀エヴァンゲリオン』『天空突破グレンラガン』ほか、数々の人気作品を生んだアニメ制作会社ガイナックスの記念すべき第1回制作作品、映画『王立宇宙軍 オネアミスの翼』が公開されました。無謀ともいえる目標に挑戦する若者たちの姿を描く普遍的な物語、緻密に描き込まれた美術と作りこまれた設定が醸し出す独特な世界観などが高く評価され、今なお人気の作品です。
監督・原案・脚本の山賀博之、企画の岡田斗司夫、作画監督の庵野秀明をはじめ主要スタッフは、日本SF大会「DAICONIII」「DAICONIV」のオープニングアニメを制作し、アニメ・SF・特撮ファンの間で話題となっていたアマチュア映像制作集団「DAICON FILM」の面々です。ガイナックスは彼らによって『王立宇宙軍』を制作するために創設されました。
スタッフの平均年齢は20代半ば。先述の3人のほか、キャラクターデザイン・原画の貞本義行など新進気鋭のメンバーが集結し、アニメを制作していく姿は映画本編の物語に重なります。作中の名ばかりの「宇宙軍」は、ファンの注目を集めながらも、アマチュアの領域に留まり続けていたDAICON FILM、そのなかでひとりパイロットを目指そうとするシロツグは山賀博之監督、彼を宇宙へと飛ばすロケットはこの『王立宇宙軍』という映画そのものです。
実際、それまで総制作費28万円の8ミリ映画しか撮っていなかったガイナックスの面々にとって、総製作費約8億円をかけた全国公開の長編アニメーションの制作は、人類初の有人宇宙飛行に匹敵する快挙だったことでしょう。