声優・塩沢兼人さんの命日 『ガンダム』マ・クベ『クレしん』ぶりぶりざえもんなど
個性豊かな役を幅広く演じた稀有な才能

さて、少年時代から役者を志していた塩沢さんは、日本大学芸術学部演劇科在籍中の1975年に、『タイムボカン』で声優デビューを果たしています。
その後、『一発貫太くん』で初のレギュラーをつかむと、1979年には『機動戦士ガンダム』に出演しさまざまな役を担当しますが、なかでも悪役として演じたマ・クベが高評価を受けました。その後は独特な色気と深みある声質を生かし、『戦国魔神ゴーショーグン』のレオナルド・メディチ・ブンドルや『蒼き流星SPTレイズナー』のル・カインなど、多くの美形悪役を演じるようになりました。
1980年には『宇宙戦士バルディオス』で初の主役となるマリン・レイガンを射止め、複雑な背景を持つキャラクターを時に熱血漢として、時に自身の出自や愛に苦悩する若者として見事に演じ切りました。
しかし塩沢さんの演技の幅の広さは、主役や悪役といった範囲に収まるようなものではありません。『銀河旋風ブライガー』の木戸丈太郎役ではギャグができることを証明し、ギャグとシリアスを交えたタイプのキャラクターを数多く演じるようになります。
なかでも『クレヨンしんちゃん』(以下、クレしん)のぶりぶりざえもんはハマり役となりました。塩沢さんの死後、『クレしん』二代目監督の原恵一氏は「ぶりぶりざえもんの声は塩沢さん以外に考えられないと思ったので封印した」と語っており、事実16年もの間、後任の声優が立てられることはありませんでした(現在は神谷浩史氏が担当)。なお、2000年5月19日に放送された『クレしん』の「大河時代劇スペシャル!春日部黄門」が塩沢さんの遺作となっています。
他にも『銀河英雄伝説』のパウル・フォン・オーベルシュタインのような冷徹なキャラクターや、『ハイスクール!奇面組』の物星大のような中性的な役柄までを自在に演じた塩沢さんの存在感は圧倒的なものがあります。
『スーパーロボット大戦シリーズ』では20年以上前に収録した音声を今でも使用し、特に『超獣機神ダンクーガ』の司馬亮では他のキャラクターの声を新録し、塩沢さんの声と組み合わせて上手く掛け合いを作り出すほどのこだわりを見せてくれています。
少し前のアニメを見直すと、塩沢さんの足跡は至るところに残されていることに気付きます。色気ある低く繊細な声で、演じるキャラクターごとに異なる姿を見せてくれた類まれなる俳優でした。ここに謹んで、哀悼の意を捧げたいと思います。
(早川清一朗)